あなたは海外移住先の生活環境や食文化について、ネットの表面的な情報だけでは分からないリアルな現実に不安を感じていませんか。移住先を検討する上で、毎日の食卓に並ぶ食材の質や買い物のしやすさは、生活の幸福度に直結する重要な要素です。効率化された便利な国を選ぶべきか、それとも少し不便でも人間らしい温かみのある国を選ぶべきか、悩んでいることと思います。ここでは僕がオランダでの生活を経てポルトガルに移住する決め手となった、スーパーマーケットの肉屋と魚屋から見えてくる現地の豊かな食文化について紹介します。
ヨーロッパに移住した当初、まさか自分が将来ポルトガルに住むことになるとは夢にも思っていませんでした。正直なところ、僕の中でのポルトガルのイメージは「クリスティアーノ・ロナウドの出身国」くらいしかなく、そもそもヨーロッパの国だという実感すら薄かったのが事実です。しかし現在、僕はポルトガルに魅了され、この国で生活を送っています。人生はどうなるか本当に分からないものですが、僕がポルトガルに恋をした原体験は、あのスーパーマーケットの中にあった対面式の肉屋と魚屋の存在でした。
サーフィン仲間から勧められたポルトガルの食文化と食材の質の高さ
僕がオランダに住んでいた頃、ひょんなことからサーフィンに出会い、深くのめり込むようになりました。「なぜ寒いオランダでサーフィンなのか」と聞かれればタイミングとしか言いようがありませんが、現地のサーファー仲間と話していると頻繁にポルトガルの話題が出ました。彼らは「5月の休暇はポルトガルに行く」「次の休みはペニシェで波に乗る」と口を揃えて言うのです。ポルトガルがそれほど波の良い素晴らしい場所だとは知っていましたが、初心者の自分にはまだ早いと思っていました。

しかし、僕をコーチングしてくれていた身長2メートルもあるオランダ人のサーファーに「今のレベルに関係なく、絶対に一度はポルトガルに行った方がいい」と強く勧められ、足を運ぶことになりました。実際に訪れてみると、温暖な気候や素晴らしい波はもちろんですが、何よりもご飯の美味しさに強烈な感銘を受けました。なぜこれほど食事が美味しいのかと考えた時、調理技術以前に、そもそも食材そのものの質がオランダとは比較にならないほど高かったのです。
例えばオランダのきゅうりは、緑色をした固形の水分を食べているような感覚で、野菜本来の味がほとんどしません。トマトもパプリカも、太陽の光を十分に浴びていないせいか味気ないものばかりでした。しかしポルトガルの食材は、野菜に限らず豚肉や牛肉、そして魚介類に至るまで、生命力に溢れていました。この決定的な食材の質の違いが、僕の心を大きく揺さぶることになります。
オランダでの生活において、味気ない食材を食べることは仕方のないことだと諦めていました。パッケージされた肉や魚が唯一の選択肢であり、それを食べるしかありませんでした。しかし休暇でフランスの田舎町やイタリアを訪れ、現地の肉屋で買い物をすると、スーパーの食材とは比べ物にならないほど美味しいことに気づき始めました。自分の中に明確な比較対象ができたことで、オランダの食への不満が少しずつ積み重なっていたのだと思います。
リスボン郊外のスーパーで出会った対面式の肉屋という衝撃と原体験
僕がポルトガルで最初に強烈な衝撃を受けたのは、リスボンから1時間ほど離れた「ローリニャ」という小さな村のスーパーマーケットを訪れた時のことでした。「インターマルシェ(Intermarché)」というスーパーに入ると、なんと店内に本格的な対面式の肉屋があったのです。オランダのスーパーではパッケージされた肉しか見たことがなかった僕にとって、それは非常に新鮮な驚きでした。

お肉屋さんのカウンター越しに「今日バーベキューをする予定なんだけど、どの部位がおすすめ?」と尋ねてみました。すると店員さんは笑顔で「豚の肩肉が絶対に美味しいよ」と勧めてくれたのです。日本やオランダにいる時は、バーベキューといえば豚バラ肉の少し厚いものばかりを選んでいましたが、勧められるままに肩肉を購入してみました。実際に焼いて食べてみると、これまでの常識を覆すほどの美味しさで感動しました。
この店員さんとのちょっとした会話と、そこで手に入れた美味しいお肉の体験こそが、僕がポルトガルに恋をした最初の原体験です。ひるがえってオランダのスーパーを思い返してみると、店内に対面式の肉屋や魚屋など存在しません。そもそもオランダのスーパーで手に入る魚といえば、ノルウェー産の冷凍サーモンくらいしか思い出せないほどです。ポルトガルで日常的に食べられている新鮮なスズキやアンコウ、塩漬けのタラ(バカリャウ)などは影も形もありませんでした。
オランダでは豚肉も牛肉も鶏肉も、すべて綺麗にパッケージされた状態で陳列されています。もちろんパッケージされていても美味しければ問題はないのですが、ポルトガルのお肉と食べ比べてしまうと、その質の差は歴然としていました。「オランダの肉とポルトガルの肉は全く別物だ」という衝撃的な事実は、僕の記憶の深い部分に刻み込まれ、最終的な移住の決断を後押しする大きな要因の1つとなりました。
スーパーのパッケージ肉と対面式の肉屋が共存するポルトガルの多様性
ポルトガルのスーパーには、対面式の肉屋や魚屋がある一方で、日本やオランダと同じようにプラスチックでパッケージされた肉や魚も普通に陳列されています。僕はふと気になって、対面式のお肉屋さんに「ここで切ってもらうお肉と、あそこに並んでいるパッケージのお肉は何が違うの?」と率直に聞いてみました。すると彼は「全く別物だよ。仕入れ先のディストリビューターも違うし、パッケージの肉は工場から直送されている。こっちの肉の方が圧倒的に新鮮だ」と教えてくれました。
では、なぜ同じスーパーの中に2つの異なる販売形態が共存しているのでしょうか。新鮮で美味しい対面式のお肉があるなら、誰もパッケージの肉など買わないのではないかと思うかもしれません。しかし、パッケージの肉を選ぶ人たちには明確な理由があります。それは「店員とコミュニケーションを取りたくない人」や「少しでも早く買い物を済ませたい人」です。対面式の肉屋や魚屋は、1人ひとりのお客さんの細かい要望に応えるため、どうしても行列ができやすくなります。

特に魚屋さんの場合、「この魚の内臓を取って、ウロコも綺麗に処理して」とお願いすれば、なんと追加料金なしで1匹から丁寧に下処理をしてくれます。計りに乗せて値段のシールを出し、そこからさばき始めるため、どうしても時間がかかってしまいます。もし「この魚を4匹さばいて」とお願いすれば、10分や20分は平気で待つことになります。忙しい現代人にとって、この待ち時間を煩わしいと感じる人が一定数いるのは当然のことです。
だからこそ「並ぶのが面倒だからパッケージでいいや」という層が存在し、スーパー側も両方のニーズを満たすために2つの形態を用意しているのです。ポルトガルにある「Continente(コンチネンテ)」や「Pingo Doce(ピンゴ・ドーセ)」、「Lidl(リドル)」といった大型チェーンのスーパーに行けば、必ずと言っていいほど対面式の肉屋と魚屋が入っています。指差しで欲しいものを伝え、下処理をお願いする。そんな人間らしいやり取りが、ポルトガルの日常にはまだ色濃く残っているのです。
少し不便でも人間らしい温かみのある暮らしがもたらす安心感
以前、このスーパーのお肉屋さんの話についてInstagramで短い動画を投稿したところ、非常に大きな反響があり多くのコメントをいただきました。その動画の最後に、僕は視聴者に向けて1つの問いかけをしました。「少し不便だけれど人間の温かみがあるような暮らしと、効率的だけどパッケージされた冷たい世界、あなたはどちらが良いですか?」という質問です。すると、大半の方から「少し不便でも温かい人のぬくもりを感じる方がいい」という答えが返ってきたのです。
いただいたコメントの中には、こんな素敵な意見がありました。「日本の昭和時代もそうでした。お肉屋さんや魚屋さん、お豆腐屋さんなど個人商店がたくさんあって、お店の方とやり取りをしたりご近所さんと井戸端会議が始まったりして、商店街はとても賑やかでした。今はセルフレジが増え、家庭も核家族や1人暮らしが多くなり、孤独な人が増えているように感じます。不便だったけれど、人情や温かみのある暮らしって悪くないですよ」。
もちろん忙しい現代人にとって、イオンなどのセルフレジがもたらす効率化は大きな恩恵です。しかし1人暮らしの人や孤独を感じている人にとっては、買い物を通じたちょっとしたコミュニケーションが心の支えになることもあります。僕自身も子供の頃、祖母と一緒に金沢の市場へ魚や肉を買いに行った時の思い出が強く残っています。祖母はいろんな人と立ち話をするので買い物に1日がかりでしたが、「市場に行くよ」と言われるといつも心がワクワクしていました。
お店の人と笑顔で言葉を交わし、顔なじみの関係を築いていく。ポルトガルのスーパーの対面カウンターで繰り広げられる何気ないやり取りを見ていると、かつて祖母がやっていたような温かい買い物の風景が今もここで生きているのだと感じ、深い安心感を覚えます。効率化ばかりを追い求めるのではなく、少しの不便さを許容してでも人間らしい温かみや豊かな食文化を大切にする。それこそが、僕がポルトガルという国に見出した本当の豊かさなのだと思います。
まとめ ポルトガルの食文化と対面式スーパーから学ぶ移住の魅力
ここまで僕がオランダからポルトガルへ移住する決め手となった、スーパーマーケットの肉屋と魚屋から見えてくる現地の豊かな食文化について解説してきました。最後に要点を4つにまとめました。
- 食材の質や豊かな食文化は移住先の生活の幸福度に直結する重要な要素である。
- ポルトガルのスーパーには対面式の肉屋と魚屋があり新鮮な食材を手に入れることができる。
- 対面販売とパッケージ販売が共存しており効率を求める人と質を求める人の両方のニーズを満たしている。
- 効率化された世界よりも少し不便でも人間らしい温かみのあるコミュニケーションが心の豊かさを生む。