今回のレクチャーではブランド戦略のうち、ブランド・プロミスについてお話しします。ブランド・プロミスを理解することで、あなたが顧客に提供すべきものが明確になります。またブランド・プロミスの作り方もカバーするので、これを見ればあなたのブランドが今後ブレることがなくなるはずです。
ブランド・プロミスは自分の顧客について理解し、正確なマーケティングを行う上で重要な要素です。ブランド・プロミスはよく、バリュー・プロポジションなどとも混同されやすいものです。これらの違いについても解説します。このレクチャーを終える頃には、ブランド・プロミスとは具体的にどのようなものなのか、それらの必要性や、作成方法についても理解できているはずです。では早速見てみましょう。
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ブランド・プロミスとは?
ブランド・プロミスとは、そのブランドが顧客に提供することを約束する価値のことです。顧客があなたの製品やサービスを購入するとき、それによって何を得られるのか、何ができるようになるのか、どのように問題が解決するのか、どのように生活が向上するのかといったイメージのことです。
これは「この商品はこういうもので、こういう機能が付帯します」とすごく具体的に説明するものではなく、そのブランドや商品から得られる体験や感情をイメージしてもらうものでなければなりません。言い換えれば、すべての商品を包摂するような上位概念ということです。
またブランド・プロミスは、ユーザーがあなたを他のブランドと差別化する基準になるようなものでもあります。あなたがブランドを通して提供するものを書くだけでなく、他のブランドとの違いについても表現できると良いでしょう。
ブランド・プロミスとバリュー・プロポジションの違い
ブランドには、様々な要素がありますよね。ロゴなどの視覚的イメージの他に文章やキャッチフレーズなどの文字情報として以下のものがあります。
- バリュー・プロポジション
- ブランド・プロミス
- タグライン
タグラインというのは、キャッチフレーズに近いものです。ブランドが提供する価値観をまとめた短い文章のことを指します。この3つは混乱しやすいのですが、特に最初の2つ「ブランド・プロミスとバリュー・プロポジションとはどう違うのか?」と迷う人がいるかもしれません。確かに両者はよく似ています。
この2つの違いを説明しておきます。バリュー・プロポジションとは、顧客に付加価値を与え、競合他社との差別化を図る要素を表した短い言葉です。対してブランド・プロミスとは、そのような言葉を説得力のあるストーリーに仕立てたものであるということです。必然的にブランド・プロミスの方が長くなります。
ボルボの例
ここで、自動車メーカーのボルボを取り上げて、バリュー・プロポジションとブランド・プロミスを見てみましょう。ボルボのバリュー・プロポジションは「安全」です。そして、その言葉から次のようなブランド・プロミスを導いています。
「人を守り思いやることは、ボルボ車の哲学の中心であり、命を救うためのコミットメントである」
彼らはバリュー・プロポジションである「安全」という言葉を起点に、「自分たちがなぜ安全を重視しているのか」ということを説得力のある物語にして言い換えていることがわかります。
ブランド・プロミスを作るための4つの質問
ブランド・プロミスの作り方についてお話ししましょう。ブランド・プロミスは、以下の4つの質問に答えていき、それを一文にまとめることで作ることができます。
- あなたの顧客が重視することは何か?
- 顧客はなぜあなたを必要とするのか?
- 何が彼らを動かすのか?
- 彼らは何に興味があるのか?
また、先ほどお話しした通り、ブランド・プロミスとはバリュー・プロポジションをストーリーとして語るものです。そのため、バリュー・プロポジションを基礎としたものであるべきです。
実演:石崎のブランド・プロミスを作ります
さて、では僕らのブランド・プロミスを作ってみましょう。例えば僕らが大切にしているものに「自由(フリー)」という概念があります。これを起点にブランド・プロミスを作ってみましょう。
このフリーという言葉から僕がイメージして欲しいのは、「パソコン1台でどこでも仕事できる」みたいな情報商材屋の薄っぺらいものではありません。アメブロであまり成功していないカウンセラーやコーチが語る「雰囲気だけの自由」でもありません。
もっと実力と採用と、地に足のついた技術にしっかりと裏打ちされた高級なものをイメージしています。これまでビジネスをしっかりやって、お金を稼いできた人たちがウンウンと納得してくれるようなものです。
1番目の質問をしましょう。「あなたの顧客が重視することは何か?」です。これに対する僕の答えは次のようなものです。「既存のビジネスの収益を拡大しながら、手離れの良いビジネスモデルにシフトすること」
彼らはずっとほぼ1人でビジネスをしてきて年収が2000万円、3000万円となるまで走り続けてきました。このあたりで少しゆっくりと人生を楽しむ余裕が欲しい。そんなことを考えているはずです。
2番目の質問「顧客はなぜあなたを必要とするのか?」に対する答えはこうです。「自動化と言いながら自動化で稼げてない自称コンサルタントから教わるのは避けたい。もっと自動化を使ってちゃんと稼いでいるプレーヤーから学びたい」
3番目の質問「何が彼らを動かすのか?」にはこう答えてみます。「お金はあるけど自由に使える時間がなく、旅行先にも必ずMacBook Proを持っていってしまう。ずっとこんな働き方は出来ないと限界を感じている」
最後の質問は「彼らは何に興味があるのか?」でしたね。「自分のやっているコンサルや公演の内容をデジタルコンテンツにしたい。それを人ではなく何かツールを使って管理し、効率的に販売したい」そんなことを考えています。
さて、これらの質問から浮かび上がってきたものをブランド・プロミスとしてまとめます。それが次のフレーズになります。
「私はデジタルマーケティングの専門家で、年収3000万円以上のネット経営者を助けます。デジタルコンテンツをマーケティングオートメーションで販売し、そして働く時間を1/10にして売上を10倍にすることを約束します。」
どうでしょうか?年収3000万円以上の経営者にふさわしく「好きな人と好きな場所」のような手垢のついた表現は使っていません。そこをあえて「働く時間を1/10にして売上を10倍に」といった、経営者が反応してくれそうな言葉に変換しています。
実際ここまで質問に答えて、文章にまとめていくには何人かのペルソナとなる人たちにヒアリングする必要も出てくるかもしれません。
ブランド・プロミスの実例
ここでは、いくつかの企業におけるブランド・プロミスの実例について見てみましょう。あなたが知っている企業がいくつも登場するはずです。半分は実際に僕が使っているサービスです。では見ていきましょう。
例1:Planet Fitness 「ジャッジメント・フリー・ゾーン」
アメリカの大手フィットネス・ジムであるPlanet Fitnessのブランド・プロミスは「ジャッジメント・フリー・ゾーン」です。「ジャッジメント・フリー・ゾーン」とは、直訳すると「無批判区間」となります。
つまり、初心者や運動が苦手な人であっても、周りの目を気にすることなく、誰にも批判されることもなく、自由に身体を動かすことができるというゾーンです。
「ジム全体がそういう場所なので運動音痴でも、太っていても、マイノリティでも気にしないでいいですよ。」というメッセージです。実際にPlanet Fitnessのページに掲載されている文章を見てみましょう。
「プラネットフィットネスは、誰もが、つまり誰もが快適に過ごせるユニークな環境を提供するために存在しています。」
これは、競合他社との差別化をブランド・プロミスで示している好例です。Planet Fitnessではどの店舗に行っても、常にジャッジメント・フリー・ゾーンが約束されているのです。会員は、ジムにありがちな威圧感にさいなまれることなく快適に運動ができるのです。
例2:Google「世界中の情報を整理して開放する」
世界最大の検索プラットフォームであるGoogleのブランド・プロミスは「世界中の情報を整理して開放する」ことです。
彼らの実際の言葉を借りれば「Google の使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすることです。」
これも、競合他社との差別化をしている例ですね。Googleは世界のすべての情報をインデックスすると言っているのです。この情報にはブログやホームページだけでなく、動画、音楽、ストリートビューやお店の情報などを含む地図も入っています。
実際にGoogle Earthを使えば、月のクレーターまでハッキリと見ることができます。つまりGoogleは、あなたが探しているものを正確に見つけることができると約束しているのです。事実、Googleで検索すればあらゆるものが見つかることはあなたもご存知の通りです。
例3:Geico「15分で15%以上の自動車保険料を節約」
Geico(ガイコ)は、ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイ傘下の自動車保険会社です。Geicoのブランド・プロミスは「15分で15%以上の自動車保険料を節約する」です。
これは、実際にGeicoのCMで使われていたフレーズです。具体的で測定可能な数値を約束している例で、消費者としてもすごくわかりやすいですよね?わずか「15分間」という時間で、確実に「15%」の自動車保険料を節約できると約束しています。
Forbes(フォーブス)に「実際にGeicoで15%以上節約できるのか?」という検証記事が掲載されています。それを見ると、実際にアメリカの8つの州で19.8%の節約が出来たことが確認されています。ブランド・プロミスがしっかり守られている良い例ですね。
例4:ディズニー「エンターテインメントで世界中に幸せを」
世界各地にテーマパークを展開するディズニーのブランド・プロミスはこうです。「私たちは、世界中のあらゆる世代の人々に、最高のエンターテインメントを提供することで、幸せを創造します。」
このブランド・プロミスを見ると、彼らは顧客がなぜディズニーを必要としているのか、ディズニーの何が顧客の心を動かしているのかを的確に把握していることがわかります。ディズニーに遊びに来る顧客は、非日常的な夢や魔法の世界を求めているのですね。
また、彼らは自身の価値を示すために、実用的な言葉を使っていることも特徴的です。つまり、「家族旅行でディズニーを利用すれば、魔法のような体験ができる」と約束しているのです。
かくいう僕もパリのディズニーランドの年間パスを家族全員分持っています。オランダからは、電車でも車でも4時間で着きます。僕も昔からディズニーは好きだし、東京でも香港でも足を運びました。小さな子供を3人も連れてディズニーに行くのは大変ですが、子供だけでなく大人の僕らも毎回楽しんでいます。
まとめ:4つの質問を使って確実な約束事を作る
ブランド・プロミスを顧客が求めているもの、そしてあなたがブランドを通して提供すべきものをしっかりと定めることができます。この作業はじっくり行ってください。なぜなら頻繁にブランド・プロミスを作り変えて、約束事がコロコロ変わってしまうと逆に顧客を不安にさせるからです。
今回紹介した4つの質問を使いながら、僕や実際の企業の例を参考にしつつ、1つの文章にまとめてください。この作業には時間がかかるかもしれませんが、正確なマーケティングのための第一歩です。それを忘れないでください。このレクチャーは以上です。また次回、お会いしましょう。