今回のレクチャーでは会員制サイトにおける価格設定、7つのプライシングモデルをお伝えします。会員制サイトに限らず、あなたが何かサービスやプロダクトを売ろうとするときに最も重要なことの一つは「価格設定を明確にする」ということです。今回のレクチャーでお話しする7つのプライシング・モデルは、今後あなたが起業家としてのキャリアを築く上で非常に役立つ武器となるでしょう。
7つのプライシングモデルの中にはあなたが顧客として実際に支払っているモデルもいくつか含まれています。そう、例えばAmazon PrimeやNetflix。僕も大好きです。このレクチャーでは顧客にとって都合のいいプライシングモデルでも、サブスクリプションを提供する側にとって避けるべき場合があることについても触れています。あなたのビジネスを過酷で複雑なものにしないためにぜひ最後までついてきてください。
今回お届けするノウハウはこちら
#1. マンスリー・ビリング・モデル
1つ目に紹介するプライシング・モデルは、マンスリー・ビリングです。つまり、月額請求モデルですね。ほとんどのサブスクリプション・サービスはマンスリー・ビリングを採用しており、プライシング・モデルの中でも最も一般的なものとなります。
あなたも何かのサービスに登録して、毎月の会費を払っていませんか?例えば、NetflixやSpotifyなどはマンスリー・ビリングの代表例です。サービスを提供する側からこのプライシング・モデルの流れを簡単に説明しておくと、まず見込み客がやってきます。その見込み客があなたのサービスに登録し、毎月、一定の料金を支払うという流れです。
今、思いついたベースで、僕が月額課金で支払っているものを羅列してみます。
- 室内スキー場(SnowWorld)の入場チケットとギアレンタル
- HelloFreshのレシピと食材
- キックボクシングジムのレッスン費用
- フィットネスジムの会費
- ClickFunnelsの最上位プラン
- Teachable、Zapier、Deadline Funnel
こうやって一覧で眺めてみると、実用的なものから、施設利用料、ビジネスに関するツール、娯楽費などあらゆるジャンルのサービスがサブスクリプションで提供されていることがわかります。
特にHelloFreshは僕のお気に入りです。僕たちは少しずつ肉を食べる料理を減らしています。HalloFreshはベジタリアン向けの食材とレシピを4ミール分だけ毎週発送してくれます。うちは小さな子供がたくさんいるので、忙しくて料理できない時もHelloFreshのおかげで健康的な食事を20分から30分ほどの調理時間で作ることができます。
マンスリー・ビリングを採用すると収入が安定する
僕も自分のビジネスでマンスリー・ビリングを採用しています。毎月、百人、千人、何万人というユーザーが自動的に課金してくれるという状況がどれだけ最高か、言葉で表すのが難しいくらいです。
これはiPhoneのStripeアプリをスクショで撮影したものです。毎週ペイアウトする設定にしています。5400円や5700円、さらには39700円と同じ金額が並んでいることに気づかれずはずです。これら全てがサブスクリプションからの売上です。こういった決済が1週間のうちに100回ほど繰り返され、毎週200万円前後のサブスクリプション収入をうんでいます。
マンスリー・ビリングを採用することによって、収入が安定することは言うまでもありません。来月の収入を心配しなくていいので、生きる上でのストレスが明らかに減ります。嫌な仕事をしなくてもいいということはもちろんですが、一定の収入があることによって、好きな仕事にチャレンジできるという点も魅力的ですね。
朝起きて子供を学校に送る間もなんらかの決済が必ずあります。そのままトラムに向かう間でも1つの決済。トラムの中でオランダ語を勉強している時も決済があるかもしれません。海についてサーフィンをしながら日常を忘れ、ひたすら波に押される感覚を楽しみ、海から上がる。iPhone を確認すると、複数の決済が計上されている。
こんなことが実際に僕の身に起こっています。ふと思うことがあります。もしかしたら人生の早い段階でサブスクリプションを導入することは、ビジネスにおける最大のチート、いや人生における最大のチートなんではないかと。まるで自分は人生の隠しコマンドを押したのではないか思うときがあります。
こういった点からも、僕はマンスリー・ビリング・モデルが大好きです。何度でも言いますが、収入面でのストレスを軽減してくれるというのが一番嬉しいです。
マンスリー・ビリングなら安価な価格設定がしやすい
マンスリー・ビリングのもう1つのメリットをお教えしましょう。他のプライシング・モデルと比べてみても、比較的安価な価格設定がしやすいのがメリットです。1ヶ月単位での請求なら高額請求をすることはほとんどありませんし、見込み客の立場からしても購入しやすいという魅力があります。「1ヶ月だけでも試してみるか」と購買意欲を正当化できるのが、いいところですね。
オープン・マーケティング・プランとの相性が抜群
また、他のレクチャーでお話ししたオープン・マーケティング・プランを思い出してみてください。
覚えていますか?オープン・マーケティング・プランとクローズド・マーケティング・プラン。販売期間を限定するクローズド・マーケティング・プランとは違い、オープン・マーケティング・プランは365日ずっとカートをオープンしておく手法でしたね。
オープン・マーケティング・プランとマンスリー・ビリングはとても相性がいいんです。例えば、ボーナスを用意して「今、サブスクリプションに登録してもらえたらセールスレターとメールシーケンスのテンプレートを特典として差し上げます」とアピールすることができます。そうすれば登録してもらいやすくなりますね。
僕もオープン・マーケティング・プランとマンスリー・ビリングをよく掛け合わせます。「サブスクリプション費用がたったこれだけなのに、登録したらこんなに素晴らしいボーナスまでもらえるんだ」と思わせたらこちらの勝ちです。オープン・マーケティングはクローズドのものと違ってCVRを高めるために「今買っておかなければ損をする」という緊急性が必要なので、こういった工夫が欠かせません。
以前にも話したと思いますが、僕が初めて会員制サイトをローンチするときにも、毎月異なるボーナスを用意して、見込み客にインセンティブを与えることを意識していました。ボーナスを用意することによって僕らは会員を獲得できます。お客さんもサブスクリプション費用以上の価値を追加で手に入れることができるのでWIN-WINの関係になります。
ボーナスを売り込むときの決まり文句はこうです。
このボーナスは単体で5,000円くらいで販売しようと思っているものなんです。でも、今月中に会員になってもらえれば無料で差し上げます。サブスクリプション費用は2,000円なので、会員制サイトの中身に納得するかどうかは別として、登録するだけでお得なんです。
人はまだ経験していないサービスに対してお金を払うのには心理的な抵抗があります。その心理的なハードルを取り除いてあげるためにも、こういったボーナスをインセンティブとして積極的に取り入れましょう。
会員制サイトは解約よりも入会の方がハードルが高い
心理的…というキーワードが出たので、少しだけ心理学に沿ったマインドセットをお教えしましょう。見込み客の多くはマンスリー・ビリング・モデルの会員制サイトに入会する段階で「初月に登録してみて、サービスが微妙だったらすぐに解約しよう」と考えています。サービスを提供する立場のあなたとしては、あまり嬉しいものではないかもしれません。しかし、あなたがフォーカスするべき最初の目標は、彼らを会員制サイトに引き込むことだけなのです。
なぜなら、会員制サイトを解約することよりも、入会してもらうことの方がハードルが高いからです。だから、まずは入会してもらうことが最初の目標。そして、会員となったユーザーをいかに引き留め続けるかは二段階目の目標です。
まずは会員になること自体に魅力を感じさせてください。そのためにフロントエンドのオファーを考えましょう。フロントエンドでユーザーを引き込んだら、魅力的なカスタマーサービスとユーザー・エクスペリエンスで徹底的に魅了しましょう。
日割の価格に換算すると適切なプライシングができる
先ほども言った通り、僕は数あるプライシング・モデルの中でも特にマンスリー・ビリングが好きです。見込み客の購買意欲を刺激しやすいですし、オープン・マーケティング・プランとも相性がいいですからね。
でも、他にもマンスリー・ビリングを気に入っている理由があるんです。それは、サブスクリプション費用を日割りの価格設定で考えやすいということです。
最近、青木さんの会員制サイトの価格設定に関するコンサルティングを行っていました。彼は小学2、3年生を担当する教員のためのサイトを運営しているんですが、あることに悩んでいました。
青木さんは僕にこう言ったんです。「石崎さん、この市場の教育系サービスは相場が低いんです」と。彼の会員制サイトは月額2,000円でしたが、確かに彼が提供しているサービス内容と比べてみると、それは安すぎると感じていました。しかし、彼は価格を上げることによって見込み客が離れるのではないかと不安になり、会費を上げることに躊躇していたんです。
僕は彼に「そのサービスの会費を1日あたりに換算したら、いくらになりますか?」と尋ねました。すると「1日70円弱です」という答えが返ってきました。そこで、僕らは1日いくらがそのサービスにとって適正な価格設定なのかについて考えることにしたんです。
このコンサルティングをきっかけに青木さんの会員制サイトのマーケティング戦略を立てました。プライシングをする際に心理障壁が邪魔をして適切なプライシングができないというのはよくあることです。
だからこそ、1日ごとの価格が計算しやすいマンスリー・ビリング・モデルは、適切な価格設定に役立ちます。起業家としてマーケティング戦略を実践する際、ぜひ活用してみてください。
#2. 年間プラン付きのマンスリー・ビリング・モデル
ここまで1つ目のプライシング・モデルであるマンスリー・ビリングを解説してきました。2つ目は、年間プラン付きのマンスリー・ビリング・モデルです。1つ目のプライシング・モデルとの違いは、支払いプランにオプションがあるという点です。
見込み客側の年間プランのメリットの1つは、ディスカウントを受けられるということです。入会する時点で1年以上の利用を決めているという熱心な見込み客にとって「1年分のサブスクリプションで料金がディスカウントされる」というのは、とても魅力的な要素です。そしてあなたにとっても、1年分のサブスクリプション費用をまとめて受け取れるというメリットがありますね。
今、一緒に仕事をさせていただいている宮澤クリニックの栄養療法に関するサブスクリプションにも年間プランを用意することにしました。このサブスクリプションは、サクセスパスに基づき各モジュールが作られており、月額課金で申し込んだ人には30日ごとに1モジュールがドリップされる仕組みを採用しています。
一方で、熱心な受講生もいます。彼らは30日ごとに公開されるペースを遅いと感じるかもしれません。だから年間プランに申し込んだ人には全てのモジュールへ一気にアクセスできる権利を与えます。月額プランより料金的にお得で、かつ全てのモジュールにアクセスできるのであれば、やる気のある受講生には魅力的なオファーです。
また、年間プランのオプションを選択するユーザーの中には、毎月毎月繰り返しクレジットカードに請求が行くことを好まないという人もいます。こういった観点から言っても、年間プラン付きのマンスリー・ビリング・モデルを用意するというのは、とても素晴らしいことです。
年間プランを選択してもらうためのテクニック
先ほど、年間プランのサブスクリプションを奨励するためにディスカウントを行うという方法を紹介しました。他にも見込み客に年間プランを選択してもらうためのテクニックがありますので、ディスカウントの詳細も含めて、いろいろな戦略をお話しします。
まずはディスカウントについてです。一般的なのは、1年分のサブスクリプション期間を10ヶ月分の費用で販売するといったものです。例えば、サブスクリプション費用が3,000円だったとしましょう。普通に12ヶ月間、毎月毎月支払ったとすれば、合計36,000円になります。ここで年間プランのサブスクリプションを奨励するためのキャンペーンを行なったとします。見込み客にこうアピールしましょう。「1年間のサブスクリプションを登録してもらえれば、通常36,000円のところ、30,000円で参加してもらえるようになります。」と。すでに1年以上のサブスクリプションを決めている見込み客にとっては6,000円つまり丸々2ヶ月分ものディスカウントが受けられるわけですから、当然、年間プランを選択するはずです。
年間プランをオプションとして採用すべき理由は他にもあります。別のレクチャーでは、リテンションつまり顧客の継続率について詳しく解説をしますが、このリテンションを大幅に伸ばすテクニックとしても年間プランは有効です。
マンスリー・ビリングのプランしか用意していなければ、全ての会員は、継続するか解約するかの選択に毎月迫られることになります。これはつまり、リテンションが1年を通して安定しないということを意味します。しかし、年間プランを導入することによってリテンションはかなり安定します。1年間のサブスクリプションが確定している会員が増えるからです。こういった点からリテンションを伸ばすためにも、会員にディスカウントを与えてインセンティブにつなげるためにも、年間プランは有効です。
年間プランについて考えておくべき注意事項
さて、ここで年間プランについて考えておくべき注意事項があります。リテンションに関して僕のレクチャーで提供する情報に従ってもらえれば、基本的にはリテンションは長くなります。あなたの会員制サイトに数ヶ月間だけ登録するメンバーよりも、何年も契約し続けてくれる会員の数の方が増えるはずです。だから、あなたも今「年間プランは絶対に導入しよう」と考えていると思うのです。
しかし、年間プランというものの性質上、マンスリー・ビリングと比較して、サブスクリプションの更新をしてもらう確率は下がってしまいます。既存の会員にとっては年間プランで大きなディスカウントを受け取るメリットがある一方で、一度に大きな額を支払うというデメリットもあるからです。そして、年間のサブスクリプション費用と1ヶ月のユーザー・エクスペリエンスを比較してしまう傾向があるのです。
「12ヶ月分」のコストと「1ヶ月分」のサービスを比べるのは、明らかに割に合うものではありません。しかし心理的な働きとして、そういった比較をしてしまうのです。そして「自分が払った費用と受け取っているサービスは釣り合っているのだろうか?」と考え、年間プランでの更新に抵抗感が生まれてしまう場合があります。
年間プランにはこういった問題もあるので、顧客の心理をよくよく理解して、価格設定をするようにしてください。そして、会員制サイトに所属するメンバーが常にそのメリットを感じることができるように試行錯誤を続けましょう。この点についても、詳しくお話をする機会を持ちますので、そんなに心配しなくても大丈夫です。
#3. 年間プランだけのサブスクリプション
それでは、3つ目のプライシング・モデルについてお話ししましょう。それは「年間プランのサブスクリプションだけ」という非常にシンプルなものです。
このプライシング・モデルを採用している企業として最初に思い浮かべるのは、かつてのAmazonです。つい最近まで、Amazon Primeのサブスクリプション・サービスが年間プランのみとなっていたのは有名です。今は月額課金も用意していますね。
1ヶ月ごとに費用が請求されるのが煩わしいという人にとっては、とても魅力的なプライシング・モデルだと言えるでしょう。見込み客の中には最初に全ての費用を払ってしまって、長期間、サービスを受け続けたいという人も少なくありません。
ただ、このプライシング・モデルにはちょっとした問題があります。簡単に言えば、フロント・エンドで摩擦が生じてしまうということです。年間プランを好む見込み客も多いですが、その一方で使ったことがないサービスに一気にお金を投入することに躊躇する人も少なくありません。「多額のサブスクリプション費用を払ったのに期待通りのサービスじゃなかったらどうしよう?」こういった不安がフロント・エンドでの摩擦となり得るのです。
そのため、もしあなたが第3のプライシング・モデルである年間プランに絞りたいのであれば、フロント・エンドで見込み客を引き込むマーケティングへの努力が必須です。素晴らしい会員制サイトであるということをアピールするのは当然のこと、その素晴らしさが1年間を通して継続的に提供されることを説得力を持って説明しなければなりません。
こういった理由から、年間プランだけをサブスクリプションのプライシング・モデルとして販売するのは、難度が高いと言えるでしょう。特にマーケティングやポジショニングに関しては好きなように楽しいことをやる…というわけにはいきません。1年間のサブスクリプション・サービスを購入したくなるように、綿密なプランニングをしていきましょう。
年間プランを選択してリテンションを高めた事例
このように年間プランの注意事項ばかりをお話しすると「リスクが高そうだから選ばないでおこう」と思われてしまうかもしれません。しかし、過去12ヶ月の間に、このプライシング・モデルに関して、とても興味深い事象が起こりました。
会員制サイトのサブスクリプション・サービスに登録するユーザーの多くは、もちろんマンスリー・ビリングを選択します。しかし、僕がコンサルティングを行っている2人の会員制サイトオーナーは、年間プランを採用した後にあることに気付きました。それは、年間プランを選択したメンバーのリテンションが高い傾向にあるということでした。
もちろん、この2人のオーナーが日々コンテンツを充実させる努力をしていることは言うまでもありませんが、それ以外にも1年間を通して顧客が受け取っている価値をリマインドするという努力が功を奏しているようです。僕が紹介する様々な戦略を活用することで、年間プランを選択した会員のリテンションを高められるということは間違いなさそうです。
では、彼らは具体的に何をしたのでしょうか?ここで思い出してほしいのは、あなたにも作成してもらったサクセスパスです。僕らは会員制サイトの運営をしている間、何度も繰り返しサクセスパスを見直すことになります。
年間プランを維持させるのはサクセスパス
サクセスパスと年間プランの関係とは一体なんだと思いますか?それは、サクセスパスを利用することで、顧客が過去12ヶ月に達成した進歩を思い出させることができるということです。サクセスパスがなければ、過去12ヶ月間に歩んできたプロセスや積み重ねてきた努力を思い出すことはできません。一方でサクセスパスがあれば、どれだけの進捗があったのかをひと目で思い出すことができます。
幼い子どもがいる僕が今ハマっていることの一つは、Google Photo の撮影場所メニューです。僕には5歳になる息子がいるのですが、この間、彼が2歳の頃にシェアした投稿を一緒に見たんです。僕たちは宮古島にいました。たった数年前のことですが、この数年で僕も、彼も人生が大きく変わりました。その撮影場所の一覧を見るだけで4年半の道のりを事細かに思い出すことができたんです。それはとても素晴らしい体験でした。
会員制サイトでもサクセスパスを使うことで同様の体験を会員に提供することができるはずです。進歩している人ほど、自分がどれくらいの成長を遂げたのかを忘れるものです。なぜなら、そういった人に限って過去の自分や自分の進捗よりも「次に何をしようか」ということにフォーカスしているからです。
会員制サイトに年間プランを導入しようという場合、会員に対して成長の物差しを与えてあげましょう。そして、その物差しこそが、あなたが苦労して作ったサクセスパスなのです。会員制サイトのコンテンツやマーケティングだけでなく、リテンションという観点からもサクセスパスは確実に高い効果を発揮します。
先ほど話した2人の会員制サイトオーナーの実践から、サクセスパスが年間オプションを更新するメンバーの割合の向上に繋がることはハッキリとわかっています。
ただ、僕の個人的な意見を言わせてもらうと、年間プラン1本だけに絞るやり方はあまり好きではありません。それよりも2つ目に紹介した年間プランとマンスリー・ビリングを組み合わせるモデルの方が好みです。Amazonのような大企業も採用している方法ではありますが、一般的に年間プラン1本で成功させるのはかなりの努力が必要となるでしょう。
#4. アップフロントとマンスリー・ビリングの組み合わせ
4つ目のプライシング・モデルは、アップフロントとマンスリー・ビリングの組み合わせです。ちなみに、アップフロントとは前払い料金のことを指します。
このプライシング・モデルは、一般的に先行投資が必要なプロダクトやサービスに見られます。例えば、UPSモデルで月単位にパッケージを郵送している会員制サイトなどに有効です。もしくは、ウェルカムパッケージのような、初月に何か商品を物理的に郵送するタイプのサービスでも採用しているところがあります。もちろん、UPSモデル以外の会員制サイトでもアップフロントとマンスリー・ビリングの組み合わせを取り入れることは可能です。
ただこのプライシング・モデルを用いることで、明らかに見込み客を顧客にコンバージョンする際のハードルが高くなります。アップフロントがあることで、購入するという決断をより難しくしてしまうのです。
アップフロントを取り入れている企業の狙いは、冷やかし客を避けることです。真剣に取り組んでくれる見込み客だけを取り入れたいという場合は、このプライシング・モデルが役立つこともあるでしょう。
わかりやすいのがフィットネスジムの入会金がアップフロントにあたります。入会金の仕組みがあることで、再度入会するつもりのある人はなかなか辞めれません。「家から近いし、今はなかなか来れないけど、来月になったらまた時間ができるはず。それよりも一度休会した後に、また入会金を払うのは損した気分になる」と一定数は考えるようです。
フィットネスジム側も「今月だけ入会金無料」のオファーを作れるので非常に優秀なマーケティングギミックだと僕は考えています。
アップフロントに関する2つの問題点
ただ、僕のこれまでの経験から言うと、アップフロントを取り入れるのは得策だとは言えません。先ほども言った通り、サブスクリプションを開始するために前払い料金を払わないといけないというのは、軽い興味を持った見込み客を追い払うことになりかねないからです。
加えてアップフロントのシステムがあることで、お金関係のやりとりがかなり複雑になってしまいます。「入会後にすぐキャンセルした場合は返金してもらえますか?」「以前の入会時に前払い料金を支払ったけど、再度入会するときにはまた支払わないといけないのですか?」など、いろいろな質問が寄せられるはずです。
アップフロントがあることでサブスクリプションのキャンセルを防ぎやすくなるというメリットもありますが、僕はあまり好きではありません。それよりも、できるだけサブスクリプションのハードルを下げて、会員に良い意味でのサプライズを与え、幸せを感じさせたいのです。そちらの方が結果として会員が残ってくれますし、お互いにハッピーですよね。
とにかく4つ目のプライシング・モデルをまとめると「アップフロントとマンスリー・ビリングの組み合わせ」です。前払い料金を支払った後は、毎月、通常通りのサブスクリプション費用が請求されることになります。
#5. ワンタイム・アクセス
5つ目のプライシング・モデルは、ワンタイム・アクセスです。その名前からもわかる通り、サービスの提供に対して1回限りの請求を行うというモデルです。会員制サイトでも同様で、一生の間のサブスクリプションに対して、たった一度切りの請求を行うことになります。
言うまでもないことですが、ワンタイム・アクセスはおすすめできません。
以前、あるコースのローンチを行った際、このプライシング・モデルを用いたことがあります。見込み客からすると「たった1回の支払いで一生使える」というメリットがあるため、フロントエンドではかなり販売数が伸びました。しかし、後からこれが大きな失敗だったと気づいたのです。
ワンタイム・アクセスは文字通り、そのサービスやプロダクトを購入した人が一生涯の顧客となります。つまり、継続的にサポートをし続けなければならないのです。サポートを提供するためには、こちら側で費用や時間といったリソースを使わなければなりませんから、時間が経過すればするほどカスタマー・バリューは低下していきます。しかし、ワンタイム・アクセス・モデルで販売してしまった以上、彼らが望むだけの期間、サービスを提供し続けなければならないのです。
このプライシング・モデルがどれだけ大変かは想像できますね? ワンタイム・アクセスのサービスを購入したすべてのメンバーをサポートするために会員制サイトの運営を一生続けなければならないのですから。そのために継続的なコストが発生し、そのコストを賄うために新規会員を集めなければなりません。そして会員が増えれば増えるほど、会員制サイトの維持費用は膨らんでいきます。
ワンタイム・アクセスで多くの会員を集めて、瞬間的には高い収入を得たとしても、カスタマー・バリューの観点から言えばベネフィットはかなり低いものとなります。そして、それらをカバーするために他のコミュニティを作ったり、収入を増やすための試行錯誤を常に考えなければならなかったり…これは、あなたや僕が望むものではありません。
こういった理由からもワンタイム・アクセス・モデルはおすすめしません。あまりにも多くのプレッシャーとストレスを生み出すやり方です。ビジネスモデルとしてもスマートだとは言えませんから、1回でサポートが終了するようなサービス、プロダクトに対して用いる以外は使い道はないでしょう。
#6. 期限付きプラン
それでは、6つ目のプライシング・モデルである期限付きプランに移りましょう。これは、ドリップ・タイプやモジュール・タイプの会員制サイトに多く採用されているものです。会員はサブスクリプション費用を払うことで一定期間会員制サイトにアクセスできるようになります。一般的には、3ヶ月・6ヶ月・12ヶ月といったような期間のオプションを用意することになるでしょう。
ところで、期限付きプランのモデルとマンスリー・ビリング・モデルでは、どんな点が異なると思いますか?マンスリー・ビリングは基本的に解約をしない限り、いつまでも請求が続くことになります。一方で期限付きプランの方は、最初に一定の期間を設定してサブスクリプション費用を支払うため、会員期間としての終わりが決まっています。
ちなみに最近になって、TeachableにはLimited Course Access Durationという、この期限付きプランを実現させるための機能が追加されているので、このプランを実装する方法も以前よりグッと楽になりました。
ただ僕の個人的な好みとしては、やはり通常のマンスリー・ビリング・モデルを選びたいところです。毎月請求されるのに抵抗があったとしても、入会後のユーザー・エクスペリエンスで良い意味でのサプライズを与え、毎月の支払いに抵抗をなくすというのが僕のやり方ですから。
しかし、フロント・エンドにおけるマーケティング戦略の観点で言えば、期限付きプランのモデルはとても有効だと言えます。人は、始まりと終わりが明確なものに惹かれますし、安心もするものなのです。決まった期間に対してお金を支払うことで、余分な料金を支払うリスクを避けることができます。3ヶ月なら3ヶ月分、6ヶ月なら6ヶ月分のサブスクリプション費用を支払うというのは、購入時の心理的ハードルを下げるのに役立つでしょう。
#7. トライアルモデル
それでは、7つ目のプライシング・モデルに話を移しましょう。トライアルモデルです。よく見る手法としては「初月100円で参加してください」とか「初回サブスクリプション限定395円」というものです。
サービスに対してかなり低い金額のサブスクリプション費用を支払い、7日間とか14日間だけアクセスできるようにし、そのまま通常のマンスリー・ビリングへと移行していく流れになります。
SkillShareは初月0.99ドルのキャンペーンを定期的に開催しています。入会の敷居を低くして気軽に申し込んでもらい、サービスを気に入ってもらったのち、2ヶ月目以降の通常料金を課金することが彼らの意図です。
低価格のトライアルを提供することで、たくさんの人が会員制サイトに登録してくれることでしょう。なぜなら、トライアルがあることで購入時の心理的ハードルを大幅に下げることができるからです。サービス自体は気になるけど、最初から通常のサブスクリプション費用を支払うのは気が引けるという見込み客にとっては、とても魅力的なプライシング・モデルです。トライアルで少しだけの費用を支払えば、短期間だけでもフルにサービスを体験できるのですから。
トライアルモデルならではの注意点
一方でトライアル・モデルには注意点もあります。より多くの見込み客が実際に参加してくれることになりますが、それに比例してカスタマー・サポートの機会もかなり増えることになるはずです。システムを悪用しようという人も出てくるでしょう。こういったリスクが増えることに注意しておいてください。
僕もかつてSkillShareのプロモーションを真似して初月100円のキャンペーンを売ったことがあります。正直言って、たくさんの変なお客さんが集まりました。課金された2ヶ月分の200円を返せ!と起こった方が生活消費者センターに駆け込み本当にセンターのおばちゃんから電話がかかってきました。
スカイプの自動応答を英語に設定していたためか、おばちゃんもついつい「ハロー」と言ってました。その後の言語はもちろん日本語に戻っていましたが。
ここでは紹介できないような質の悪いお客さんがたくさん集まってきたので、これを反面教師の機会として、高価格帯にシフトしました。そう言う意味では、一旦はトライアルモデルを運用してみてどのくらシステムを悪用する人が多いか経験してみるのも1つかもしれません。
あなたの会員制サイトに何かしらのダウンロード・コンテンツがある場合、トライアル期間中に全てをダウンロードされ、その後にすぐ支払いをキャンセルされてしまうかもしれません。これはあなたが望む展開ではないはずです。しかし、トライアルを導入することで、どうしてもそういったユーザーが出てきてしまうリスクは高まるのです。
トライアルを提供するということは、より多くの人にドアを開けるということです。それまであなたの会員制サイトが気になっていた見込み客を引き込むという意味では有効な手段ではありますが、それなりのリスクがあるということ、そしてカスタマー・サポートの頻度が増えることは覚悟しなければなりません。
ただ、会員制サイトのオーナーの中には、このプライシング・モデルを有効活用している人もいます。他のプライシング・モデルと比較すると、より多くの人を受け入れ、より多くの人を失うことになります。しかし、平均的なサブスクリプション数で見ると、マンスリー・ビリングや年間プランよりも獲得した会員数は多い傾向にあるようです。いろいろとリスクはありますが、うまく活用すれば利益につなげていくこともできるでしょう。
まとめ:あなたの会員制サイトにぴったりの価格設定は実験を続ける中から見つかる
ここまでで7つのプライシング・モデルを全て解説してきました。あなたに理解しておいてもらいたいのは、どのモデルを選ぼうと、その選択に正解や間違いなどはないということです。
プライシング・モデルの選択は、個人の好みによるものです。僕の好みに基づいて説明をしたため多少の偏りはあったかもしれません。しかしそれに惑わされず、あなたの会員制サイトに合ったものを選んでください。
僕の個人的な経験だけで言うとすると、やはりマンスリー・ビリング・モデルと年間プランの組み合わせがおすすめです。それ以外のやり方ももちろん実践したことがありますが、ストレスがたまるだけでした。しかし、他の会員制オーナーの例を見ていると、アップフロントを導入することでより良い結果を得た人もいますし、他にもいろいろな成功例があります。トライアルを使ってみてもいいですし、あなたが試したいものであればなんでもやってみてください。
繰り返しにはなりますが、全ては実験です。厳格なルールなんてどこにもありません。常にあなたの直感と好みに従ってください。そして、常に実験を試みてください。
チャットワークで運営されているコミュニティの仲間は、年間プランを導入することによってサブスクリプションの更新率が高まったという成功例を聞かせてくれました。彼らの勇気ある実践を知るまで、僕は、年間プランは会員にとって更新をためらわせるものでしかないという認識しかありませんでした。しかし、時と場合によっては、リテンションを高めるモデルですらあるということが分かったのです。
僕らのコンプリートバンドルの年間プランの更新率は70〜80%と非常に高いです。他のサブスクリプションサービスと比べても、かなり良い数字であると言えるでしょう。そういった実感からも年間プランのメリットは大きなものであると言えます。こういったことも全て実験があったからこそ、分かったことなのです。
それでは、今回ご紹介した7つのプライシング・モデルから1つを選んでみてください。どうやって価格設定をすべきかについては、別のレクチャーでお話をします。それではまたお会いしましょう。