いやー、アクター、アクトレス大事ですね。初めてMOVEを見たとき、まず最初に思ったのが「アクターめっちゃイケメンやん」と。彼の名前を検索すると・・・
ほんまもんのアクターやないですか。ということで、この動画を模倣しようとした人たちの夢は、最初の最初で打ち砕かれたわけです。どれだけ編集スキルがあっても、顔が不細工やったら、この動画は成立しないのです。これがVimeoで評価されたのは、アクターのハンサム度合いが結構大きいと思っています。もちろん着想も素晴らしいんだけど、やっぱりMOVER = ACTOR = Andrew Leesがイケメンじゃなかったら、ここまで再生回数は伸びなかったと思うんですね。
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アクターはイケメンであるべし
特にこう言ったアクターやアクトレスを全面に出す人物動画の場合は、本当に容姿が大事。じゃあなんや、お前ら自分のことイケメンやと思っとるんか・・・とか言わんといてください。容姿が大事ってことに気づいたのは、すべてのフッテージを撮り終えてからなんです。これマジです。
MOVEの音楽を担当しているのは Kelsey James という方なんですけど、彼の名前を検索すると、僕らのように MOVE の模倣品がたくさん出てきました。もちろんディスクリプションには
- based on MOVE by Rick Mereki
- video inspired to MOVE by Rick Mereki
の記述があるので、彼らは堂々と「この動画から着想を得ましたよ」と宣言しているわけです。で、それら動画を一個一個見ると、少し息が苦しくなった。大変失礼ですが、Andrew Leesほどのイケメンではなかった。というか本気で演劇を勉強してきた人間(=Andrew Lees)と同じことを素人がやろうとしても無理なわけです。
彼が軽くニコッとするだけで、その顔が超イケメンになる。もともと容姿がイケてない上に、笑い方を知らない僕なんかがカメラを凝視すると、見ている方が本当に不快になる。これ謙遜とかではなくて、本当に不快になるんです。だから、大幅に編集の方向性を変えてサイドビューを加え、子供の顔を加えた。もしフィナーレが石崎力也・顔の連チャンやったら、これ、しんどいです。他人のMOVE模倣品を見てて、素人の顔の連チャンがあるとやっぱりしんどかったし。もし次回、自分の顔を出す機会があれば、まず現状の体重90kgを75kgまで絞ってからですね。
模倣する過程でいろんなこと勉強させていただきました。はい。
それでもフォーマットを参考にせよ
今回の失敗点はイケメンが登場するMOVEのフォーマットを選んだことですが、動画編集の初心者や素人がプロの作品から着想を得るのは悪いことだと思いません。むしろスキルの上達に繋がるのでいいことだと思っています。
ミステリーの書き方という本があります。現代のベストセラー作家が集まり、ミステリー小説の書き方を教えています。その中にこのような内容があります。
- トリックの重複はミステリーではタブー
- 少なくとも新人賞などでは減点対象になる
- でも、これだけ小説が書かれると既にトリックは出尽くした感がある
- だから最新のテクノロジーを駆使したトリックや
- かなりマニアックで科学的なトリックにならざるをえない
もしかしたら都合のいいように脚色してあるかもしれませんが、大方の内容はこんな感じです。ミステリーの書き方にも寄稿している東野圭吾さん。殺人のトリックとして「レールガン」という電磁誘導(ローレンツ力)により加速して打ち出す装置が使われています。なんだレールガン?なんだ電磁誘導?なんだローレンツ力?と無教養な僕は思ったわけです。でもトリックって、そのくらいにマニアックじゃないと、もう過去に出た小説のそれと丸々被ってしまうわけですよね。
動画も同じだと思うんです。もうアイディアは出尽くしている。僕はそう思います。
2014年にBest of Vimeo 2014を受賞したWatchtower of Turkey という素晴らしい映像があります。あの後、似たような動画が雨後の筍のように出てきた。同じようなエフェクトの使い方、同じようなトランジション、同じようなフッテージ、同じような音楽。それら似た作品を作った動画編集者も多かれ少なかれ、Watchtower of Turkeyから影響を受けていると思うんです。中上級者は、自分たちがパクっているという意識はむしろなくて、既に知っているトリック(エフェクトのかけ方とかトランジションとか)を思い出して使っただけと思っているかもしれません。
そうそう、動画の世界でもトリック(動画のフォーマット)は出尽くしているんです。
頑張って自分のオリジナルを一から考えてしょぼいが動画が出来上がる。無益の苦労。それなら、既に出尽くしているフォーマットからアイディアを借用するのはいかがだろう。僕はそう思います。
ということで、これから家族動画を作るのであれば、無造作にフッテージを集めて後日ランダムにそれらを繋ぎ合わせるくらいなら、フォーマットをよく観察して、真似てみることをお勧めします。フォーマットはVimeoにあります。YouTubeにもあるんですけど、関係ない動画(マネーの虎とか、ボクシングKO集とか、Vineまとめとか)に集中力をそがれる恐れがあるので、Vimeoから探しましょう。Vimeoはアーティストのプラットフォームなので、素敵な動画がたくさん見つかります。ほとんどは英語で制作されていますが、幸い中高の6年間英語を勉強してきましたから、英単語くらいなら検索できそうです。Travel, Family, Beautiful, New York, Kanazawa, Hyperlapse, Timelapse・・・。いろんな言葉で検索して、貪るようにたくさんの動画を目で消費してください。
ちなみにMOVEを模倣した作品の中に、こんなディスクリプションがありました。
Inspired by Where the Hell is matt & Move by Rick Mereki
あ、あの有名な Where the Hell is mattの動画からもインスパイアされたんだと思うと同時に、僕と同じ意見を持った人もいたんだと少し驚きました。このMOVEの動画を見たときに、あ、Where the Hell is mattとパターンが似ているなって思ったんです。Mattさんの動画は世界中で踊りまくっているフォーマットです。RickさんのMOVEは世界中で歩きまくっているフォーマットです。共通しているのは、カメラのアングルは固定で、被写体にワンパターンな動きをさせている点です。もしかしたらMOVEのディレクターすらも、その着想を別の動画から得ているのかもしれませんね。
徹底的に真似てからオリジナルを出す
もし仮に僕がミスチルの桜井さんのように歌えたとしても、練習するのはミスチルの歌だけで、自分オリジナルのものを作ろうという気概は一切生まれてきません。だって、ミスチルを超えるような楽曲を作ろう気が一切起こりませんもん。ミスチルの楽曲が現時点で十分素晴らしいので、それを超えるものを聞きたいと思いません。Oasisを超えるものも、Maroon 5を超えるものも、RHCPを超えるものも作ろうとは思いません。彼らの音楽をコピーして弾いているだけで幸せな気分になれます。
まあ専門でない分野でオリジナルを出そうって気が起こるのも、それはそれで変だとは思いますが。
もしあなたがフォーマットを丸パクリするのが嫌なのであれば、多少アレンジを加えるといいかもしれません。でも、まず最初は徹底的に真似てみてください。徹底的に真似る過程で、オリジナル動画の意図みたいものが掴めてくるし、カメラワークのスキルも上がってきます。まずはじっくりとオリジナル動画を観察する。これ超重要です。
僕らがこのMOVE動画をよくよく観察してわかったことは以下の点です。(推測を多く含む)
- Canon EOS 7Dを使っている
- Canon EOS 5D Mark 2を使っている
- ISOは200〜640(高いとノイズが出るから)
- 三脚で高さを固定してある(手持ちではない)
- 音楽に合わせてトランジションしてある
- エフェクトはほぼなし
- 歩いている最中フォーカスは全体にバランス良く
- フィナーレの顔アップの部分は被写体にフォーカス
撮影時のコツと赤ちゃんの同行について
ついでなので、実際に撮影を始めて気づいた点と編集を始めて気づいた点も書いておきます。
- カメラの高さは顔か胸あたりに固定しておくと良い(そこがアンカーポイントとなってズームするから)
- フッテージは多ければ多い方が編集時に楽を出来る
- 被写体がメインの動画ではアクターやアクトレスの容姿が重要(前述通り)
- 僕と奥さんでは身長差が30cmほどあるので、被写体は一人の方がよかった
- フッテージの量が出来上がりの質を左右するのでオートモード(ISOやシャッタースピードが自動で決まる)でよかった
さらに、今回は赤ちゃん同行の動画なので、撮影時に幾つかコツがあります。
- 授乳室をあらかじめネットで検索しておく
- 多目的トイレの場所もあらかじめネットで検索しておく
- どこでも授乳できるように授乳カバーを用意しておく
- 頻繁に休憩をとる
- 撮影は数日間に分けて行う
- 直射日光を避けるために帽子を用意する
- フッテージはベビーカーとスリングのどちらかに統一しておけばよかった
- 赤ちゃんが絶対に笑う小ネタを幾つか持っておく
- ナイトフッテージは赤ちゃんを同行させない
じゃあここから実際に僕たちが動画を完成させるまでに行った手順を紹介していきます。
手順1:フォーマットを探す
これは既に説明しました。
手順2:プランニングする
行き当たりばったりで撮影していては非効率なので、最初にプランニングをしておきます。僕らがザクッと決めたことは
- だいたい5日くらい撮影に使おう
- 今日は金沢駅と片町周辺を撮りまくろう、明日はナイトビューを撮りまくろう、明後日は犀川を撮りまくろう、明々後日は東茶屋街…
- 授乳室や多目的トイレがない場所には行かない
- 北鉄1Dayパス(500円)で回れる範囲だけにしておこう
- Coming(カメラに向かって歩く絵)とPassing(カメラを横切る絵)を分けて撮影しよう
- 目的地に着く前に予め検索してどんな絵が撮れるか想像しておこう
手順3:1日のスケジュールをざっくり決める
ここもざっくりでOKです。昼飯前は片町周辺、昼飯後は金沢駅周辺、くらいのアバウトさ。赤ちゃんがいる場合はこのタイミングで授乳室の場所などを検索しておきましょう。
手順4:目的地を検索して撮れる絵を想像しておく
「東茶屋街」と検索して画像をクリックすればたくさん絵が出てきます。いろんなアングルを確認して、こんな絵が撮れそうと想像しておきましょう。ちなみに現地に行けば「あれも」「これも」と色々アイディアが出てきて、想像していた量の2〜10倍ほどのフッテージが集まります。
手順5:目的地で撮影をする
フッテージ量が勝負なので手際よくたくさん撮ることを意識しました。このMOVE動画の場合、良い絵が数枚あるよりかは、並程度の絵が数百枚ある方が見栄えはよくなります。日が落ちてきて光量が足りない時、ISOをどこまで上げようか・・・と悩んでいる時間があれば、オートモードに各種設定を決めさせてすぐにポンポンと撮った方が良いと思います。
撮影時のコツを羅列します。
- ガイドラインは4×4を使い、被写体に縦の中心線を歩かせる
- 雲台の水準器を使ってカメラのチルトを固定し、常に同条件で撮影する
- 編集時に必ず拡大スケールして調整するので想定する絵よりも120%ほど広範囲のフッテージをRAWファイルとする
- 編集時に高さ調節が難しくなるのでベビーカーとスリングを混ぜるべきではない
- 編集時に高さ調節が難しくなるので被写体を混ぜない方がベター
- オートモード(Lumix GH4ならインテリジェントオートモード)でポンポンと撮影し数を出す
手順6:音楽を決める
I want the viewer to perceive my edit as one continuous flow of impressions and movements, cut on the rhythm of the music and emphasized by the ambient sounds. I like to make the pictures work with the music, and not the opposite. So I first did the soundtrack for this video.
watchtower fcpx 9
It took me a long time to find the right music. When I heard “Experience” from Ludovico Einaudi (The Untouchables, Insidious…) it instantly struck me. It really reflects the spirit of Turkey: it has a classic orchestral side but also a very popular feel.
先述したWatchtower of Turkeyのエディター(Leonardo Dalessandri)のインタビュー記事から抜粋です。make the pictures work with the music, and not the opposite(音に合わせて絵を埋めていくのであって、その反対はない)と言っています。動画編集の世界では常識として認知されていることですが、動画の出来の半分以上は音が左右します。良い音楽と良いサウンドエフェクトを選ぶだけで、動画の印象がグッと変わります。僕ら夫婦も似非アニメーターとして色々と商品広告を作ってきましたが、やはり音楽は重要だと常々思うし、僕らの先生や師匠も口を揃えて「音楽は重要だ」と言います。
このインタビュー記事にも It took me a long time to find the right music. とあります。動画編集にかける時間と同じくらいの時間を音楽選定にかけてくださいってことですね。家族動画なので商用利用するケースってのがなかなか想定できませんが、例えばYouTubeで広告収入を得たいと思っているんであれば、Pond5.ocmなどで1〜3分の動画に対して$15〜$100ほどを払い、マネタイズすることも視野に入れてもいいかもしれません。僕らはフォーマット元と同じ Kelsey Jamesの音楽を使いました。
手順7:Lightroomでカラー補正する
編集を始める前にAdobe Lightroomでカラーを補正します。こういうの補正っていうのかな?レタッチっていうのかな?僕らはVSCOの提供するEclectic Films 07($59)を購入しLightroomにプリセットとして追加してあります。今回使ったプリセットはTone:Kodak 3 です。フッテージを撮影したのが初夏だったので、暖かさを出すために赤色と黄色を少しだけ強調するTone:Kodak 3を使いました。僕らがまだ動画編集をはじめたばかりの頃、Vimeoに登場する作品のカラーがあまりにも綺麗で、いつも嫉妬していました。
「世の中にはこんなに美しい場所が存在するのか」
「なんて色鮮やかな光景なんだ」
「こんな素敵な場所に行ける人たちが羨ましい」と・・・。
ネタバラシをすると、みんなLightroomでレタッチしてたんですね。Lightroomでカラー補正をした時に、自分たちの撮ったフッテージが瞬間で綺麗になり、僕は膝からガクッと折れました。え、こんな簡単だったのって。このLightroomで書き出すとRAWファイルでなくなります。H.264というコーデックで圧縮処理されます。しかもそれら圧縮処理されたフッテージをさらにPremiere Proでエクスポートする際に圧縮するので、合計2回もレンダリングするわけです。僕が言いたいのは、常に最高画質で撮り、常に最高画質で書き出してください、ということです。
手順8:編集する
いよいよフッテージを編集します。僕らはAdobe Premiere Pro CC 2015を使って編集しました。編集には幾つかの手順があります。
- まず音楽をオーディオトラック1に乗せ、編集できないようにロックをかける
- 音楽に合わせてマーカーを打つ(トランジション)
- 被写体をどこからスタートさせるか決める
- グリッド(jpg)を用意してビデオトラックの最上位に乗せる
- グリッドの下にフッテージを置いて被写体を歩かせ、グリッドのスケールをいじりながら被写体の拡大スピードに合わせる
- グリッドの透明度を下げて、下のトラックにある絵が見えるようにする
- グリッドに合うフッテージを順番に並べてゆく
- マーカーに合わせてクリップを切り替える
手順9:エクスポートする
最高画質で書き出しましょう。僕たちは16:9、H.264、mp4で書き出しました。
手順10:プロモーションをかける
多くの人に見てもらえるようにプロモーションをかけましょう。YouTubeにアップするなり、Facebookにアップするなり、ご自身のブログで紹介するなり、あるいはお友達にメールするなり・・・。告知した範囲に合わせてプロモーションをかけましょう。やはりリアクションをもらえると嬉しくなりますから。ちなみに最初のビューワーは僕の母親でした。バイアスのかかり過ぎたコメントが返ってきたので参考にはなりませんでしたが(すごい!本当にすごいよ!これテレビ局に持ち込もうよ!すごいよ!すごいよ!本当!)。
終わりに
以上がKANAZAWA TRAVEL WITH BABYの制作過程です。あんまり「金沢 トラベル」とは関係ありませんが、ミニーマウスの耳をつけた子供のフッテージが欲しかったので、マックでつけてみました。そしたらブチ切れてました・・・。マジでごめん。おまけ動画としてつけておきます。
たった1分間の動画ですが、フッテージ量は1TBを超えました。うちの子供が切れているこの動画のようにそのほとんどが使われることのないボツ動画です。合計撮影時間は100分を遥かに上回るので、使われた部分って1%未満なんですね。でもやっぱりフッテージの量は重要です。九日間撮影のためだけに費やしましたが、編集時は「もっと絵が必要!」と何度も何度も妻と一緒にぼやいてましたので。ムーアの法則がさらに加速しMacBook Pro及びiMacの容量が100TBくらいあったらいいなと思うこの頃です。