今回は、効果的な広告の条件と、それを作るテクニックについて紹介します。ビジネスを上手くやるためにもっとも大切なのは、注目されることです。
アテンション・エコノミクスという研究分野があります。その分野では、人間が持つ注意力は限られているため、注意力には希少価値があり、他の何よりも価値があると言われているのです。この主張を動画広告に適用すると、視聴者に注目される広告を打つことが、ビジネスを成功させる重要なキーポイントとなる、と言えます。
今回お届けするノウハウはこちら
視聴者の注意を引き興味を維持する広告を作る
動画広告においては「より多くの再生回数」と「より多くの売上」という2つの目標を目指します。それを達成するために、僕が使った注目度を活用する戦略についてお話します。
広告を成功させるためには、パッと視聴者の注意を引くだけではなく、その注意をずっと維持させる必要があります。なぜでしょうか? それは、動画広告の再生を売上につなげるためです。再生回数が増えることも大切ですが、それが顧客に繋がらなければ、収益は上がりません。
ここでは、さまざまな撮影スタイルの編集技術、サウンドエフェクト、モーショングラフィックスなど、注目を集めて売上につなげるための方法を見ていきます。
情報とエンターテインメントを両立させる
注目を集める広告の条件は、情報とエンターテインメントを両立することです。初めて広告を作成する際には、そのバランスについて難しく感じるでしょう。成功する広告とは、商品の情報を伝えるだけでなく、見ていて楽しいものです。情報ばかりだと、すぐに飽きられてしまいますからね。ユーモアばかりでも、商品の購入にはつながりません。
ただ多くの企業が犯している最大のミスは、前者です。情報を提供する広告を作ることに集中しすぎて、ユーモアを忘れてしまうことです。これはシボレーのEV車であるVoltの広告です。
「多くの人がVoltとその仕組みについて話しています。なぜでしょうか?それは、 Voltはこれまでに生産されたどの車とも違っているからです。ガソリンスタンドからも充電ステーションからも、もっと自由になりたいと皆が思っているはずです。だからこそ、僕たちはVoltを開発したのです。では、Voltが他のクルマとどう違うのか、説明しましょう」
どうでしょう?これ、広告の冒頭なんです。説明的で、あまり引きつけられるスクリプトではありませんね。まずフックが抜けています。印象的なフックがなければ、残りの部分を見ようとする人はほとんどいないでしょう。この広告では、商品が解決できる問題に触れていますが、情報提供に集中しすぎています。
その結果、広告自体が非常に退屈なものになってしまっています。このような広告は、「この商品を買おう」とすでに決めている視聴者には効果があるかもしれません。ただ、それ以外の人を惹きつけることはできません。
尿路感染症の検査キットを売っているScanwellという会社があります。もし、彼らが情報に偏った広告を作っていたら、どうでしょう?その検査キットを買おうと考えるのは、いま尿路感染症に悩まされている人たちだけです。ただ、ほとんどの人は尿路感染症を患っていません。
しかし、Scanwell社は新規顧客を獲得するために少しユーモアを取り入れました。人生のどこかで尿路感染症を患ったことのある人や今は尿道に問題がない人、つまり多くの人にアピールする方法を考えたのです。そのために、情報とエンターテインメントの絶妙なバランスを取った広告を作りました。
広告は、おいしい料理のようなものです。脂分と塩分のバランスが取れた料理は、誰もがおいしいと感じることが出来ます。情報とエンターテインメントの両方が絶妙なバランスで表現された広告は、視聴者にとって視覚的にもおいしい広告となるのです。
エンターテインメント性のある広告を作る6つの戦略
それでは、広告にエンターテインメント性を持たせるためには、どのような戦略をとればよいのでしょうか?ここでは、そのための6つのテクニックについて紹介しましょう。
#1:感情を引き出す
視聴者の感情を引き出すことは、エンターテインメント性を高める上で最初に行うべき戦略のひとつです。感情を喚起するためにコメディを使った広告をたくさん紹介してきましたが、ユーモアは、新しい顧客を生み出すために使える数多くの感情的反応のひとつにすぎません。
重要なのは、感情を使って広告で楽しませ、説得力のあるものにすることです。このステップを飛ばして情報だけに集中してしまうと、感情に訴えかけることができません。結果として新しい顧客にアピールすることもできないのです。
笑いあり、涙ありのどんな広告を作るにしても、1つのポイントがあります。それは、ユーモア、モチベーション、インスピレーション、希望、ショックなど、人が持つ普遍的な感情のいずれかに訴えかけることです。そうすれば、情報だけの広告になってしまうのを防ぐことができます。広告制作の過程で次のようなシンプルな質問を自分に投げかけてみてください。
「僕はこの広告でどんな感情を喚起しているだろうか?」
答えが「何もないし」または「わからない」であれば、まずはあなたが引き起こしたい感情をひとつ選んでください。そして、その感情を呼び起こせる広告スクリプトをもう一度作り直してください。
#2:効果的なBGMを選択する
感情を喚起するのは脚本だけではありません。音楽などの技術は、僕たちの脳が映像を解釈するのに劇的な影響を与えます。
例えば、「ジュラシック・パーク」のオープニングシーンは、頭に残るほど特徴的なBGMが使われています。この音楽は、視聴者が足を踏み入れる世界への期待感を表現しています。そして、スクリーン上で起こることを見たときに、僕たちがどのように感じるべきなのか、そのヒントを与えてくれます。
しかし、もしもBGMを外してみたらどうでしょう? 象徴的なBGMがなければ、ジュラシック・パークの冒頭シーンは見知らぬ人たちが観光用のヘリコプターに乗って南国の島を右往左往しているようにしか見えません。音楽がどれほど映画への感情移入に影響するかわかりますね。
そして音楽の良いところは、ハリウッド監督のような膨大な制作費がなくても、大きな感情的反応を生み出すことができることです。圧倒的に安い予算で、映像の持つ印象をガラッと変えることができます。
実は僕もよくこの音楽の力を借ります。視聴者の感情を揺さぶるために、とても強力なツールだからです。次のようなものを見ると、心が動きませんか?
広告に最適なBGMを見つけるために、無料で利用できるオンラインリソースは数多くあります。
その1つがYouTubeのAudio Libraryです。これはYouTubeにアップする動画に入れるのであれば、無料で使用することが可能です。
もし、音楽にかける予算があるのであれば、Epidemic SoundやArtlist、そしてAudio Jungleをチェックしてみてください。ここには膨大なライブラリーがあり、音楽のイメージや楽器、キーワードで検索することができます。これらのサービスはそれぞれ著作権ポリシーが異なります。各サービスの詳細は、必ず最新のものを確認してください。
#3:映像を単調にしない編集を行う
さて、音楽を使って感情を伝え、魅力的な広告を作る方法を説明しました。次は、視聴者を飽きさせないような映像編集テクニックを見てみましょう。
ジャンプカット
まずは、ジャンプカットについてです。ジャンプカットとは、時間を飛び越えたような感覚を作り出す編集テクニックです。従来の直線的で連続的な編集とは異なり、この編集を使うとシャープにシーンの切り替えができます。
この手法は映画などではあまり見られませんが、YouTubeの動画広告を制作する際には最適です。なぜなら、ジャンプカットがあることで単調さが削がれ、視聴者の注意を惹きつけることができるからです。人が10分間しゃべり続けるのをずっと見るのと、同じ内容を10本に分けて見るのとでは、どちらが飽きず見れるでしょうか?明らかに短く区切った方ですね。ちょうど次のような感じです。
また、作り手にとってもメリットがあります。ジャンプカットを利用することで、台本を一行ずつ読むことができ、全体を覚える必要がなくなるのです。僕は自分で作った最初の広告でこのテクニックを使ったのですが、台本を全部覚える必要がなくなり、しかもかっこよくなりました。
Bロール
もうひとつのテクニックである「Bロール」を見てみましょう。Bロールとは、メインショットに挿入される補助的な映像のことです。話の中の特定のポイントを強調したり、話している内容の例を示したりするために使います。
ジャンプカットと同じように、Bロールは、カメラに向けてただ話すという単調な映像を打破する便利なツールです。Bロールを見せることで、言葉だけに頼ることなく、広告の内容を視覚的に伝えられるのです。僕の例を見てください。
Bロールは、Shutterstockなどのウェブサイトから購入することもできますが、広告に使うのであれば、自分で撮影することをお勧めします。そうすれば、お金の節約にもなりますし、映像が視覚的に関連したものになるからです。また、Bロール自体が他人のコンテンツとして目立ってしまうことはありません。Win-Winですね。
カットアウェイ
次に紹介するのは、「カットアウェイ」と呼ばれるテクニックです。これは、連続して撮影された映像を中断して、広告とはまったく関連性のない他のショットに素早く切り替えることです。これにはジャンプカットと同じような心理的効果があります。視覚的な一貫性を中断することで、視聴者に 「いったい何だろう?」と疑問を抱かせ、注意を引きつけることが出来ます。例をお見せします。
僕が退屈なニュースキャスターのようにカメラを見つめて話すよりも、様々なアングルやスタイル、映像を使用した方が、より魅力的に訴えることができるのは明らかです。
#4:テキストを効果的に用いる
次のテクニックは、映像にテキストを追加することです。単純なことのように聞こえるかもしれませんが、テキストを入れることで、注目を集めたり、重要なアイデアを強調したりといったことが簡単にできるのです。僕の動画ではこんな感じに見せています。
映像で話していることを、テキストを使ってさらに強調します。それによって、あなたの話が視聴者の記憶に残る確率を大幅に高めることができます。もし今お見せした部分にまったくテロップが無かったらどうですか?内容がサラッと流れてしまいますよね?使いすぎると逆効果なので、重要かつ飽きを防止できるタイミングで入れてください。
#5:不合理さを演出する
次に紹介するのは、これまで紹介してきたものに比べて少し変わっています。しかし、これは広告で大きな印象を与えるために使えるテクニックなので紹介しておきます。
これを不合理テクニック」と呼びましょう。これは奇妙で超現実的な言葉やビジュアルを使って視聴者の注意を引くことで達成されます。これは変なフックとして、印象に残ります。Jumpcutは、このパターンを使って動画広告を作っています。
「こんにちは、僕の名前はコングです。僕はこれまで、多くの一般人がYouTubeで趣味を仕事にするのを手伝ってきました」このセリフに合わせて、「こんにちは、僕はトカゲです」というテロップを出しています。これは、論理的には全く関連がありませんが、視聴者を混乱させ、注目を集めることができます。ちなみにこの広告は2000万円ほどの売上を出しています。
彼は、同じ広告の別バージョンも作っています。次は、同じ映像に合わせて「こんにちは、僕はアジア人です」と表示しています。こうすることで、視聴者の予想を裏切り注目を集めることができたのです。このフックを使うと、コンバージョン率がそれぞれ7%と10%向上したということです。
ただしやり過ぎは厳禁です。ここでもバランスを大事にしてください。不合理さは、広告のスパイスだと考えてください。その目的は、すでにある内容を引き立てることです。
#6:常識的なパターンを破る
では、もうひとつのテクニックをご紹介しましょう。 パターン破りです。これは、予想が裏切られたときに、視聴者の脳はピタリと止まり、注意を引きつけられるという仕組みを使ったものです。例えば、ショッピングモールのKマートを見てください。この広告では、最初は至って普通です。しかし、一瞬で状況が変わります。
店員が「Ship my pants(パンツ配送します)」と言うと、客が「え?ほんと?パンツを家に送ってくれるの?ここから?」と答え、家族に向かって「おい、聞いた?パンツを送ってくれるって?」 と続けます。でも、英語ネイティブにとっては「Ship my pants」の「Ship」が空耳で「Shit」、つまり「ズボンにウンチをお漏らしする」という意味に聞こえるのです。だから視聴者からはどうしても「ズボンにウンチをお漏らしする」と聞こえてしまうわけです。
非常にシンプルな設定ですが、この違和感を残り続けるので、視聴のモチベーションになるのです。たったこれだけのことが、この広告を際立たせているのです。「Ship my pants」と聞いた瞬間に、視聴者の予想は裏切られます。そして、「いったい何が起こっているのだろう」と考え始めるのです。
ここから学ぶべきは、人の予想をひっくり返す力です。僕たちは皆、無意識にでも物事がどのように進むのか予想しています。そして、期待通りに物事が進めば、それは印象に残ることはありません。しかし、予想と異なることが起きると、そこに興味を持つのです。この意外性や驚きは、広告を成功させる上で、何よりも重要な要素です。
まとめ:テクニックを用いて視聴者の注意を引きつける
ここまで広告の視聴支持のための方法を紹介してきました。つい見続けてしまう広告とは、ただ情報を与えるだけでなく、エンターテインメント性も持ったものです。両者のバランスの取れた広告にしてください。
エンターテインメント性を持った広告を作るには、様々な工夫を取り入れてください。今回紹介したように、ダイナミックな編集技術を使ったり、BGMで感情をつかんだり、魅力的なBロールを挿入したり、見事なテキストでメッセージを強調したりという多様な方法があります。これらを使って、視聴者の離脱を防ぎ、収益性の高い動画広告を作ってください。今回は以上です。また次のレクチャーでお会いしましょう。