2000万ドルと言えば20億円に匹敵する。二人の休職中の20代が20億円で彼らの会社を売却した。本当にあった話だ。しかも彼らは休職中の言わばニートだった人たち。そんな彼らが20億円を手にするまでのプロセスを一言で表すと「バズ」以外の言葉は見当たらない。
仮にホンという名前にしよう。もう1人はトム。ホンとトムはバークレーのカフェで目の前を通り過ぎる女性を見定めしていた。しかも点数を付けながら。「あのビッチは絶対にヤリすぎてる女だ。あの真面目の裏に隠された不純さがそれを物語っている。4点!」「いや、もしあの女の子がビッチなら、世の中の全ての女性はビッチだよ、ホン。僕は10点をつけるな。」・・・という具合に。
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バズるかどうか
ホンはトムにいった。「これ、ウェブ上で広げるのはどう?」
トムは言った。「面白そうだけど、バズるかどうかわかんないよ」
だよなー。そう思ったホンは、トムにバイバイを言い家に帰る。取り敢えずプロトタイプを家で作ってみた。アルゴリズムが複雑になってきた。ここはトムの力が必要だ。ホンはトムに電話をする。ホンより数学が得意なトムは「そこはオブジェクト指向を使って、1つのクラスを使い回そう」とすぐに答えた。
なんのためのバークレー
ホンはプロトタイプを作り上げた。「ガチャ」部屋に本の親父が入ってきた。
親父は言った。「おい、ホン。お前またそんなおもちゃを作っているのかよ。なんのためにバークレーのCS*に入れたのか分からないよ待ったく。早く仕事を見つけてくるんだな。」*CS:コンピューターサイエンス
ホンはチャンスだと思った。(たぶん)生涯で3回しかセックスしたことのない親父をハマらせることができたら、これはバズる。直感めいたアイディアだったし、親父がセックスをしたのは僕と妹と弟を産む時だけだという予測も合っているかどうか知らない。だけど、この直感は後にトムとホンを億万長者にした。
ミリオン級の企業を自分の息子が作れるはずがない
「親父!これはおもちゃじゃない。ミリオン級の企業になる種だ。」
ああ見えてホンの親父も子供思いの父親。ミリオン級の企業を自分の息子が作れるはずはないと思いながらドレドレ?と言いながらおもちゃを触ることにした。
・・・おい、女性の写真があるだけだぞ。
・・・なになに、女性に点数をつけるのか。
・・・この女は5点。
・・・この女は4点。
・・・カワイイ!この女性は9点!
・・・おい、ホン!ウェブサービスにお母さんの写真を無断に載せるんじゃない。(8点を代入)
・・・この女はビッチっぽいな。でも胸がデカイから7点。
・・・(15分間で400PVを達成した)
ホンは頭がスパークした
ホンは頭がスパークした。トムに電話をした。
「おい、トム。あのセックスを3回しかしたことにない親父が15分間で400PVだ。いや、正確にはもっとだ。親父はまだ点数付けをやっている!!マジでミリオン級の企業になるぞ!」
ホンもトムも寝ずにスクリプトを全て書き上げた。そしてロールアウト当日。さてこれをどうやって世の中にロールアウトしよう。
トムは言った。「掲示板に書き込みまくろうよ」
ホンは直感的にそれは駄目だと思った。なぜなら掲示板の住人はローカルフォルダにたくさんのエロ画像を秘めている。どうせそれをアップロードするのが明らかだったからだ。ホンとトムはロールアウトに際していいアイディアが思いつかなかった。
仕方なく23人の共通の友人にメールすることにした。
1日で1万PV
23人の友人のうち18人が1日にサイトに訪れた。18人のユーザーは全員がセックスを3回しかしたことのないホンの親父よりも多くのページビューを達成した。これには訳がある。トムのアイディアが光ったのだ。品定めされる女性の平均スコアを見るためには次のページに遷移する必要があったのだ!もちろん次のページに遷移すれば、新しい女性の写真が現れる。このちょっとしたシンプルな工夫がなんと1日で1万PVを生んだ。
たった18人で1万回のページビュー!!クールすぎる。ホンとトムは自らの休職に感謝を告げた。「Thank you God. どの企業も僕たちに職をくれないから僕らはこのアイディアを思いつくことができました、ありがとう」8歳以来、教会に通うのをやめたトムとホンは、都合の良いときだけ神に祈るのが常だった。
次の日。サーバーがパンクしていた。サーバー会社に電話しても理由が突き止められない。取り敢えず、ログを見てみると、ユニークユーザーが2000人を超えていた。どういうことだろう!ホンとトムの友人23人しかこのサイトを知らないはずだ。
オレらの作ったオモチャはだたのオモチャじゃない
なんと18人の友人は、別の友達にそのサイトを勝手に紹介していた。その紹介が紹介を生み、ロールアウトから2日で2000人がサイトを訪れた。もしサーバーが落ちなかったら、百万PVくらいは・・・。ホンとトムは息を吸うのが精一杯だった。
オレらの作ったオモチャはただのオモチャじゃない!と。
サーバーを増設した。さらに「紹介はコチラ」というボタンをつけて、ワンクリックで友人に紹介できる仕組みを作った(その頃にTwitterやFacebookがあったら・・・)。
結局ロールアウト1週間でニューヨークタイムズから取材が来た。1週間のページビューは300万PV。ページ分析会社のAlexaの週間ランキングで世界2位のアクセスを二人の休職者が集めてしまったのだ。ニューヨークタイムズが無視するわけがない。
結局、バークレー校を卒業して、大企業のviceプレジデントまで上り詰めたどの同級生よりも早く、落ちこぼれの二人がニューヨークタイムズに登場することになった。
投資家を集めた
ニューヨークタイムズに乗ったことで、更にアクセスは伸びた。世界最高峰の雑誌に乗る効果はアクセスを集めるだけじゃなかった。投資家をも集めた。実はホンとトムはこのサイトをどのようにマネタイズをすればいいか分かっていなかった。だからこのサイトからお金を生むことなど想像もしなかった。もちろん当時はGoogleアドセンスはなかった。でもそんなことは関係ない。このオモチャはヤバい。それだけは分かっていたからだ。
投資家から受けられるだけの投資を受けることにした。投資された資本は全てサーバーの増設に投下した。従業員を雇うことはしなかった。なぜならたった二人で書いたコードそれ自体がアクセスを生んでいるだけで、ホンとトムがやる仕事はサーバーが落ちる度にサーバー会社に電話することと、各紙からの取材を受けることだけだった。
ペプシコの天才マーケターでも無理なこと
マーケターを呼んだかって?もちろんマーケターは不要だ。たった1週間でゼロから300万人を集客することは、ペプシコの天才マーケター達でも無理だろう。天才マーケターを「BUZZ(バズ)」が超えたのだから。
ホンは心の底ではいつかこのサイトに終わりがくると思っていた。トムもただの点数を付けるだけのサイトに興味を失っていた。二人はこのサイトを売却することに決めた。
2007年。彼らは2000万ドルを受け取って、そのサイト(会社)を売却した。20億円は(たぶん)生涯3回しかセックスしたことのない親父のハマり具合から始まった。もしあれがなければ、トムとホンは23人の共通の友人にメールはしなかったはずだ。なにより彼らに本物の20億円をもたらしたのは、18人のそのサイトを利用したユーザーが彼らの友達に紹介させて「バズ」が起こったことだった。
繰り返すが、この想像を絶するバズは当時コカコーラボトラーズを瞬間的に抜いたペプシコの天才マーケター達が起こしたものじゃない。マーケティングを全く知らない、二人の休職者と、その友人18人の紹介が起こしたものだ。これがバズの技術だ。
3人のコードを書けるヤツらがラップトップをもって集まれば
今、僕たちは誰でもバズを起こせる環境にある。日本でもFacebookに続けて多くの若者がインフラに乗り出している。シリコンバレーで言われているように「3人のコードを書けるヤツらがラップトップをもって集まれば会社は作れる」のだ。
もちろんあなたがコードを書ける必要はない。必要なのは、バズる技術の本質を汲み取ることだ。ホンとトムのように20億円の富を得るほど頑張らなくてもいい。彼らの集めた数百万分の1のアクセスを集めるだけでもあなたの現実は変わるはず。
次回からは具体的なバズの技術を理詰めで説明していこうと思う。
文責:石崎力也