今回のレクチャーでは、ブランド・ガイドラインの策定についてお話します。ブランド・ガイドラインとは、あなたのブランドの見た目や雰囲気、ロゴ、音楽などを規定するガイドラインのことです。このレクチャーを見れば、チーム内でブランドコンセプトに関する意識を共有し、効率の良い仕事をすることが可能になります。
ブランド・ガイドラインを定める目的は、ブランドの見た目や印象に一貫性を持たせることです。このガイドラインがあることで、あなたのチームの誰が仕事をしても、あなたのブランドの印象を統一できるようになります。結果的にお客さんに届くメッセージはきちんとしたものになり見込客の信頼獲得につながることになります。
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ブランド・ガイドラインとはブランド要素のトリセツ
まずブランド・ガイドラインとは何かについて見ていきましょう。ブランド・ガイドラインとは、ブランドが発するメッセージを適切に見込客に届けるための手引書のようなものです。「ブランドのロゴを使うときは、こういうことに注意してくださいね。そうでないとブランドのイメージが正しく見込客に伝わらないんです」といった注意点を盛り込んだ説明書だと考えてください。
たいていビジネスが大きくなってくると複数のメンバーが関与してきます。最初はあなた1人でやっていた仕事も、他のメンバーにお願いする必要が出てきます。他のメンバーと一緒に仕事をする際にも、統一されたルールがあれば成果物の品質のバラツキを抑えることができます。
ブランド・ガイドラインを作ることで、元々のブランドメッセージをそのまま見込客に伝えることが出来るようになります。またチーム内での修正作業やコミュニケーションのミスも減らすことが出来ます。総合的にブランドに関わる仕事の効率を上げることが可能になります。
ブランド・ガイドラインに盛り込む項目
まずは、ブランド・ガイドラインに盛り込むべき項目について紹介します。ブランド・ガイドラインに盛り込む項目は次のようなものがあります。
- ブランドの基本概念
- ロゴやカラーに関する決まり
- コンテンツに関する決まり
まずはブランドの基本概念から見て行きましょう。
ミッション/ビジョン/ブランド・プロミス
ブランド・ガイドラインの冒頭には、あなたのブランドの基本概念となるミッション、ビジョン、そしてブランド・プロミスを載せてください。これらの要素をガイドラインに加えることで、ブランドの目標がチーム内で共有されます。その結果、作成するすべてのコンテンツがあなたのイメージ通りにブランド化されてゆくのです。
ここでは、ファッションブランド「Urban Outfitters」のブランド・ガイドラインを見てみましょう。彼らはブランド・ガイドラインの冒頭にブランドの基礎となるミッション、ビジョン、ブランド・プロミスを載せています。
自社ブランドのミッション、価値観、ブランド・プロミスが明記されていることがわかりますね。ブランド・プロミスとは、簡単に言えばそのブランドが顧客に対して提供することを約束する体験や価値のことです。
Urban Outfittersのブランド・プロミスは「エッジの効いたファッションや一風変わったライフスタイル製品を手頃な価格で提供し、クリエイティブで個性的なお客様を満足させること」となっていることがわかります。
こういった基本的なブランドの考え方を、チーム内のメンバーに浸透させることは大きな意味があります。Urban Outfittersのような大きな会社では、こういった基本的な概念を理解した上で、ブランドに関わる仕事をしてもらう必要が出てくるのです。
バリュー・プロポジション
バリュー・プロポジションも、ブランド・ガイドラインに含めるべき項目のひとつです。これは、企業が提供する価値を3行程度の印象的な言葉でまとめたものです。ここでも、Urban Outfittersの例を見てみましょう。
Urban Outfittersのバリュー・プロポジションとして、次のことを挙げています。これらもブランド・ガイドラインの中に掲載されています。
- 目新しい
- 文化的
- 都会的
- ストリート
- 陽気な
バリュー・プロポジションやブランド・プロミスの詳しい内容や作り方については、別のレクチャーで解説しているので、そちらも参考にしてみてください。
ターゲットとなるペルソナ像
次にあなたのブランドが想定しているペルソナの情報も入れましょう。ユーザー・ペルソナとは、あなたの企業が狙う顧客像のことです。ターゲット・オーディエンスと呼ばれることもありますね。
Urban Outfittersのペルソナをすごく具体的に定義しています。本当に実在する人物のようにすごく具体的に書かれていますし、人物の写真も載っています。他にもその人の属性や趣味などが記載されています。
Urban Outfittersが作ったペルソナは、次の通りです。おそらく実在の人物なのでしょう。
- 名前:ローズ
- 年齢:19歳
- 職業:美大生
- 彼女を表す3つの言葉:ヒッピー、風変わり、元気がある
さらに、彼女にとっての理想の一日がどのようなものであるかについても書かれていますね。ペルソナが社会人の場合は、彼らの仕事の内容や抱えている課題について書かれることが一般的です。しかし、今回のペルソナは美大生なので、おそらくまだ仕事に就いていません。
そのため、代わりに彼女の最高の一日の過ごし方は「夏に友達とゆったりお酒を飲みながら過ごすこと」だと書かれていますね。実際の彼女をイメージした画像も載っているので、すごくビビッドにペルソナをイメージすることができます。
ロゴやカラーに関する決まり
ブランド・ガイドラインでは、そのブランドが使用するロゴマークについても細かく規定されているケースが多いです。具体的にどのような項目があるのか、詳しく見てみましょう。
ロゴカラーをカラーコードで指定する
まずは、ロゴの色についてです。ここからは、音楽ストリーミングサービスのSpotifyを例にロゴのルールについて見ていきます。
Spotifyではこのように、HTMLで表す色の「Hex値」、パソコンの画面で表示される色の「RGB」、印刷時に表示される「CMYK」がそれぞれ指定されています。ポイントは、緑や青と言った曖昧な指定の方法ではなく、しっかりとしたカラーコードで指定することです。これにより作業する人によって色のバラツキをなくすことが出来ます。
エクスクルージョン・ゾーンで余白の取り方も指定する
ロゴについては、エクスクルージョン・ゾーンも規定されます。エクスクルージョン・ゾーンとは、上下左右に十分な余白を取ることで、実際のロゴの印象を変えないようにするための領域のことです。Spotifyの例では以下のようになっています。
こういったエクスクルージョン・ゾーンのような余白をきちんと作らないと、ロゴの見え方が変わってきてしまうことがわかりますね。ブランドのイメージを統一するためには、あなたのロゴを使う全ての人が、正確にそれを使用する方法を知っている必要があるのです。
ロゴのルールや誤用例
ロゴを使用する際のルールや誤用例について明記しておくことも大切です。正しい使い方だけでなく、あえて間違った使い方を載せることで、ロゴの使い方がより具体的になります。Spotifyでもロゴの誤用例をいくつも掲載しています。
例えば、「Spotify」の文字は常にマークの右側に置かれなければならず、下や上や左に置くことは許されません。また、ロゴマークにグラデーションを使用するのも禁止されています。ロゴマークや「Spotify」の文字を斜めにしたり、ロゴ自体を回転させてもいけません。当然、ロゴマークや文字の色を変えることも許されません。
セカンダリー・カラー
メインのロゴカラーの副次的な色として使用して良い色が指定されることもあります。この副次的な色は「セカンダリー・カラー」と呼ばれるものです。
イギリスのシェフ・Jamie Oliverは、自身の作品に対して使える色の範囲を指定した、カラーパレットを作成しています。
このようにカラーパレットとして、色を指定しておくことでメインカラー以外の色を使いたい場合に、色がバラバラになるのを避けることが可能です。このようなセカンダリー・カラーを定めることも、ブランドの一貫性を維持するのに役立ちます。
ちなみにCanvaでは、このような色の組み合わせをあなたのブランドカラーとして登録しておく機能があります。この機能は「ブランドキット」と呼ばれていて、カラーだけでフォントやフォントサイズ、ブランドのロゴ画像も登録しておくことが可能です。これらは登録しておけば、Canvaの中ですぐに呼び出せるようになっているのですごく便利です。
主要フォント
ガイドラインでは、ロゴや製品で利用するフォントを規定することもできます。ただしフォントに関しては、表示環境に依存することもあるので、ある程度ゆるやかに規定しているブランドも存在します。
例えば、テネシー大学ノックスビル校ではメインのフォントと、サブとなるフォントを明確に決めています。例えば見出しなどの短めの単語に関しては、Gotham(ゴッサム)というフォントを使う指示になっています。記事の本文などの長めの文章にはGeorgia(ジョージア)というフォントが指定されています。
Spotifyの場合は、色々なケースを想定しています。まず「Spotify Circular」と呼ばれる自社で開発したフォントを使ってもらいます。もしそのフォントが何かの理由で使えない場合には、いくつかの選択肢があります。そのプラットフォームのデフォルトのサンセリフフォントであったり、HelveticaやArial(エイリアル)を使うことになります。
コンテンツに関する決まり
ブランド・ガイドラインでは、そのブランドが提供するコンテンツについても規定することができます。たとえば、すごく落ち着いたブランドなのに言葉や内容が過激なものだったり、お客さんが引いてしまいますよね。
ブランドとして、どのようなコンテンツを作るか?ということについても基準となるものを、ブランド・ガイドラインに掲載することが可能です。
コンテンツ内容を決める「コンテンツ・スタンダード」
コンテンツ・スタンダードとは、そのブランドが提供する全てのコンテンツに共通する基準のことです。Shopify(ショピファイ)の例を見てみましょう。
Shopifyのコンテンツ基準は「常に顧客のニーズに応えること」です。そのために、すべてのコンテンツが誰が読んでもわかるような文章で書かれることが求められています。加えて、コンテンツは「顧客に対して行動を起こさせるようなもの」であるべきとも決められています。
つまり、顧客のニーズに応えていたとしても、読んで単に気分がよくなるだけのコンテンツはダメということを意味します。このようにきちんとしたコンテンツの基準を決めておくと、複数のメンバーで作業した時にも品質を一定に保つことが可能になります。
表現方法を決める「ブランド・トーン」
ブランド・トーンとは、あなたのブランドで発信されるコンテンツが、どのようなトーンで語られるべきかということです。このトーンというのは、口調や雰囲気という意味です。これはつまり、ターゲットとなるペルソナに合わせた言葉の表現を使おうということになります。
先程紹介したコンテンツ・スタンダードが中身の話ならば、このブランド・トーンは言葉遣いや表現方法ということになります。Shopifyのブランド・トーンの例を紹介します。
これを見ると、Shopifyではブランドが発信する文章は、以下のようなものであるべきと定められています。
- リアルだが、厳しすぎず、馴れ馴れしすぎないこと。
- 積極的だが、必要以上に押し付けがましくならないこと。
- ダイナミックでありながら、散漫でなく衝動的でないこと。
- ガイドはするが、やりすぎない、答えを処方しない。
このように規定することで、社員の誰が書いても文章に一貫性を持たせることができます。このほかにも、例えばブランドが使用する特定の単語を大文字にすることを指定したり、タイトルの文字サイズを指定したり、文体を指定したりしても良いでしょう。
まとめ:ガイドラインを設定してブランドイメージを統一する
ブランド・ガイドラインは、顧客があなたのブランドに対して同じ印象を持ってもらうために非常に重要です。これを作ることで、あなたのチームの誰が作業をしても、統一されたブランドイメージを保持できるようになります。
ここで紹介した項目を定めていくことで、あなたのブランドと他のブランドとをはっきりと差異化することができるでしょう。今回のレクチャーは、以上です。また次回、お会いしましょう。