iPhoneのメモに書いています。ネット回線がないのでライブでアップロードできません。書き溜めて、何処かでWiFiを運よく見つけたら、それを吐き出す要領でこの文章はあなたに届きます。
街灯はないし停電しているし、そもそも島に供給されている電気量足りてないしの、ないない揃いで闇がその暗さを増します。文字通りiPhoneとそれのライトが照らすレイバンのメガネフレーム以外は全く見えません。そう、外で書いているんです。午前中、僕が子守をしているあいだ奥さんに買ってきてもらった木造りの椅子に横たわり星空の下で(と表現した方がDRM的には成功するけど、あいにく曇り空で一等星すらその輝きを失っています)この文章をストックしています。昼間は暑くてシンドイのでこの時間しか文章を書けないんですね。
これ、メモに書いているからアップロードし忘れてお蔵入り可能性もあり。そんな賞味期限を過ぎた旅のスケッチがパソコンやiPhoneの中にそれはたくさん積もっています。もう自分でも探せないくらい深いディレクトリの下に。
講談社文庫から出てる村上春樹さんの遠い太鼓を読んでみて下さい。嗚呼旅をしながら仕事をするのはこういうことなのね、と心底で理解できます。そしていささか啓発されてみて下さい。旅をしながらお金を稼ぐためにはどんな能力が必要か考えてみるのは、それほど害のあることではありません。
ミコノス、シシリー、スペッツェスなどギリシャの島々で翻訳、長編小説(ノルウェイの森)の仕事を仕上げていく春樹さんのライフスタイルに感銘を受ける人もいるかもしれません。僕は感銘を受けました。彼の仕事術に啓発されて日本を飛び出し島にやってきました。
結論からいうと全く仕事になりません。春樹さんと僕においてあらゆるパラメータが違い過ぎました。ここを詳細に書くとそれはそれで楽しい文章になるのかもしれませんが、簡潔にまとめることとします。島は基本的に不便なんですけど、引き換えに自然の美しさや閑静な場所が手に入ります。その環境で仕事が進む人と進まない人がいるでしょう。僕らの職業を鑑みると「旅生活」や「島生活」はDRMと親和性が高いはずです。よって仕事が進む人なはずなんです。
そうならないのは僕らに子供がいるからです。不便な場所で子供と生活するのはキャリア的には致命的です。交通の基本はトライシクルであまりにも揺れが激しく7ヶ月の脳ミソを乗せていいとは思えません。故、何処かに行くには片方が子守、片方がバイクを飛ばすしかありません。
ああなんかこんなできない理由をネガティヴに並べて感じが悪いですね。子供のせいで仕事できないとか言うのは「人生で大切なことが何かわかっていません」と宣言しているようなものです。
僕らは楽しんでいます。そもそも仕事をしに来たわけではないので、仕事ができないからガッカリしているわけでもないんです。むしろ喜んで不便さを享受しに来たんです。日本にいる間、それなりに仕事量をこなしたので、休養のためにここにいるんです。
パソコン一台あれば世界中の何処でも働けるというフレーズは、世界中の何処にいても働き続けなきゃいけないことの裏返しでもあり個人的に最も敬遠しているフレーズの一つです。なんでカタンドアネス島に来てまでインターネットに繋がらなきゃ行けないんだよと思うわけです。そんな暇があるなら上を向いてご覧なさい。そこには今にも落ちてきそうな無数の星屑があるから。(残念ながら本日は月明かりが微かに見える程度ですが)
あ、蛍が飛んでる。ホタルってココナッツの木が好きなんですね。知りませんでした。この島では学校に行く男の子たちがジプニー(乗り合いバス)からカッコよく飛び降りるのが一つの風景になっています。日本では会議に間に合うようにカッコよく電車から飛び降りる人がいるようです。
どちらか正しいとか正しくないとか、そういうのじゃないんです。カタンドアネスはそういう場所で、日本はそういう場所っていうだけの話です。電車から飛び降りる人がいる国の出身者が、乗り合いバスからカッコよく飛び降りて女の子なモテようとしているボーイ達がいる島に、観光でも長期滞在でもなく、家族でフラリとやって来ただけの話です。
そうだ、明日はマンゴーとパイナップルを食べよう。そうしよう。
耳なし芳一を再現するように耳だけ虫除けクレーム塗るのを忘れてしっかりそこだけ蚊に刺されました、愛を込めて 石崎力也