どこかでこんな言葉を聞いたことがある。
呼吸することと生きていることは違う
たしか初めて聞いたのは高校生の時。当時はこの言葉の意味が全く理解できなかった。生きるためには呼吸する必要がある。呼吸することは即ち生きていることなのではないか。なにを意味不明なことをのたまう。そんな感じ。
・・・こんなくだりだとあたかも「今は呼吸していることと生きているが違うことくらい分かっている」と言わんばかりだけど、実際のところ、まったく理解していない。未だに呼吸することと生きていることの違いはわからない。ただ一つ。没頭していないときは自分の呼吸に気づいてしまう。頭をストップさせて、中途半端に未来に思いを馳せ「オレの将来は・・・」なんて答えのない禅問答を繰り返しているうちは、いつも自分の呼吸に気づいてしまう。「(スーハースーハー)あ、呼吸している」って。
先日も自分が呼吸しているのに気づいた。あれは西新宿で行われたSNSブーストセミナーなるものに参加していた時。友人の強制連行されて、はじめて乗る丸ノ内線。初めて下りる西新宿。初めて見る街。予定に入っていなかったセミナー。「このセミナーに参加したら絶対に5万円は儲かるって聞いたよ!」そう目を輝かせる友人は、僕の分を含めて合計14万円をセミナー代にペイしていた。(正味9万円の損失に彼は気づいていたのだろうか?)・・・セミナーも後半。質問者が手をあげる。「あ、あのYと申します。現在ツイッターで投稿されたものをコピペしてブログに投稿しているのですけど、これはGoogle SEO的にどう思われますか?」・・・寝ていた僕は目を覚ました。(え!このご時世でまだコピペとか言ってるの?)
僕は呼吸をしていた。つまらない時、他人に連行されたセミナーに参加した時(結構よくある)、中途半端に哲学をしている時、足踏みをして全く前に進んでいない時、何も考えずにテキトーに世の中に迎合している時、僕はいつも呼吸している。いやいつも呼吸はしているのだけど、そういった最悪タイムにいつも呼吸の存在に気づいてしまう。くだらなすぎて自分の呼吸にさえ興味が湧いちゃうくらいの時。
性行為時、資金ショートしそうな会社を回している時、見ることも許されないような美人な女性を見た時、心が爆発しそうなワクワクするような本を読んだ時、久しぶりの友人と面会した時、I am Samを見ている時、僕は呼吸していない。息するのを忘れるくらい目の前のことに没頭している。世界を忘れている時、損得を越えた感情で圧倒的に時間を浪費している時、時間が存在していない時、僕は呼吸をしていない。生きているってそういうことなのですか。
波風立てずに生きてゆくこともできる。明日までに20万円用意して下さい。来週までにどうにか100万円を工面して下さい。そういった心臓がキリキリとするような日常を避けて生きていられるなら、ストレスもないし、24歳にもなって嗚咽まじりで涙を流す必要もない。(ほろほろと泣いてみたい次第であります)
だけどそれじゃあまたムカシのオレに戻っちゃうじゃん。呼吸していることに気づいてしまうじゃん。それじゃあ生きている気がしないじゃん。また周囲の意見に合わせて自分を綺麗に溶け込ませてしまう?どこからが自分でどこからが他人?そんなくだらない人生なら自分の呼吸にすら興味をもってしまうはず。
大学1年生の時にEminemのWithout Meという曲にしびれた。「オレ無しじゃあ、どうせ議論するネタもなくなるし、批判する対象すらもなくなるんだろ?」まさにWithout Me。TSUTAYAでCDを借りてきて彼のセンセーショナルな歌詞、名指しでFCCをファッキュー呼ばわりする度胸に触れて以来僕の世界は文字通りEminemナシではどうしようも回らなくなってしまった。
どう考えても、今この場所から僕が消えても世界は悠々と回り続ける。とても気持ち良さそうに回り続ける。グルグルと何もなかったかのように(実際に本当に何もなかったのだが)24時間ワンセットのリズムを刻み続ける。そんなこと考えると「くそやろー、くたばれオレ今すぐ、その程度なら」なんて思ってしまう。ガンガンに中指を立てられるのは呼吸をしている自分自身にだけだ。こんなにビンビンに立っている中指は見たことがないくらいに。
Eminemがこの世から消えたら明日のルーチンは変わってしまう。エミネムなしの世界はうまく回らないから。まるで留学中にスティーブジョブスがこの世を去り、杉村太郎さんがこの世をさり、僕の日常が回らなくなってしまったかのように。元彼女が目の前から消えても平気で世界は回り続けていたのに。毎日たくさんの人が死んでいるのに、僕はいつも通りマックでコーヒーを買って、オフィスで仕事をする。まるで何もなかったかのように。だけど、その人無しでは回らなくなる世界も僕の中にはある。
僕は誰かにとってのWithout meになれるのか。このまま呼吸するだけの人生を送っていたら、地球はきっと愉快に回り続けるに違いない。昨日と今日と明日のやることが全く同じの日常を繰り返していたら、誰も僕をMTVから締め出そうとはしない。「ああ、本当にパンピーはおとなしくていいねえ。いいねえ。都合いいねえ」って世界は僕を見下し続けるだろう。くそやろう!
1年でこの会社を潰す覚悟で仕事をしろ。札束を燃やす覚悟で仕事をしろ。20代は捨て、だ。どうせ失敗するなら素早く失敗しろ。20代は捨て!20代は捨て!くたばれ、このやろう!うん。そんなの知ってる。そんな知っているから、港区のど真ん中からスタートしたんだろ。そんなの知っているから、こうやってWithout Meを聞き続けているんだろ!うん、知っている。
石崎力也
追伸:もし僕が学校の先生なら絶対こんなブログ書けないなぁ。
追伸2:よくこんな会社と仲良くしようとしてくれる人がいるものだ。